『潜入ルポamazon帝国』著者・横田増生氏(撮影・編集部)
──実際、15年ぶりに物流センターに潜入してどんな変化がありましたか?
横田 今回は神奈川県小田原にある日本で一番大きな小田原の物流センターにアルバイトとして入ったのですが、以前とはまったく別の会社になっていた。15年前と大きく違ったのは手作業だったピッキング作業がハンディー端末によってなされていたことです。これは人的ミスが起こり得ないと同時に、効率化のもと労働者が機械で管理されるということです。前回はたとえば1分の間に本を3冊探すという作業でしたが、今回は、秒単位で管理される。ひとつの作業が終わると、「次のピッキングまで⚫秒」という文字が現れ、その数字がゼロへと向かっていく。その“詰められ感”がきつかったですね。しかもピッキングの数は少ないだけでなく、作業時間が短いと「サボっている」とみなされてヒアリングの対象にもなる。作業の精密さ、管理化によって、人間性が奪われる感じでした。アマゾンからしたら作業効率的には格段によくなったのでしょうが、でも働いている人間はさらにしんどくなった。
しかも、前著で書いたアマゾンの秘密主義も健在でした。携帯電話は絶対持ち込み禁止で、発覚したら即クビ。とにかく物流センターでは人を人として見ていない、がんじがらめのシステムで縛られているんです。そうした異様な管理体制のもと息つく暇もなく、働かされるわけです。
今回潜入して実感したのですが、作業をしていても達成感はないし目標も持てない。そしていつも急き立てられている。丸1日、一言も喋らない日もありました。労働の楽しさがほとんどない、というか皆無です。やりがいがあるとしたらピッキングが早くなるとかランキングの上になるとか。でも時給が上がるわけでもないしね。
もちろん私自身の衰えもあると思います。前回は30代後半でしたが、いまは50代。以前は半年間潜入できましたが、今はとても体がもたない。今回は1日で万歩計は2万5千歩ほど、距離は20キロ以上歩いた計算ですからね。8日間という短い間でも、息絶え絶えでした(笑)。
──しかし、アマゾンの物流センターには横田さんより高齢の方も働いていることが本にも書いてあります。驚いたのは介護オムツの件でした。
横田 実際にどの人が介護オムツをしていたかは分からなかったのですが、男性トイレの個室に「おむつを流さないでください」という張り紙があり、「これ以上、続く場合は、やむを得ず、費用を請求することになりますのでご承知おきください」と。トイレ内にはおむつ専用のゴミ箱もありました。ということは介護オムツが必要な人が、経済的理由からか働いているということでしょう。他にも、定年退職した70歳近い男性や、高齢の介護が必要な母親を抱えた40代の男性がケアマネに電話している場面にも遭遇しました。
現場の貧困がひどいのは、ユニクロと比べてみてもアマゾンの特徴だと思いますね。ユニクロは主婦と学生のバイトがメイン。主婦なら夫、学生なら親の収入があるため、世帯年収はそこまで低くない。だからバイト時間を削りますと言われても「ああ、そうですか」と抵抗しない傾向があった。しかし要介護の母親を抱えた男性は、おそらく世帯の主な稼ぎ主です。もし妻がいて働いていたとしても、月収はせいぜい20万円ほどにしかならない。要介護者を抱えて余裕などないないでしょう。また生活保護を受けている夫婦が一緒に働いていたケースもあります。さらに驚いたのは、ホームレスかと思えるような人も働いていたことです。こうしたことは氷山の一角にすぎない。他にもっと悲惨なケースがあってもおかしくない。物流センターは貧困の縮図でもありました。