選挙特番に出演する安倍首相(ANNnews)
「『少なくとも議論をおこなうべきだ』、これが国民の審判だ」──。参院選の結果を受けて、本日午後に安倍首相が記者会見をおこなったが、さっそく憲法改正に向けてスロットルを全開にした。
今回の参院選で「改憲勢力」は改憲発議に必要な3分の2議席を割ったというのに、「憲法改正の議論をおこなうべきというのが国民の審判」って……。だいたい安倍首相は、「連立与党で71議席、改選議席の過半数を大きく上回る議席をいただきました」と誇るが、実際には、改選前の77議席を大幅に下回ったのが現実だ。
しかも、自民党にかぎれば、改選前は67議席だったのに対し、今回獲得した議席数は57議席と10も減らした。その結果、今回の選挙で自民党は3年振りに参院での単独過半数を失った。
さらに比例区では2016年参院選と同じ19議席となったが、得票数は前回の2011万票から今回は1800万票前後に留まる見込みだといい、〈棄権者も含めた全有権者に占める割合を示す比例区の絶対得票率も、第2次安倍政権下での国政選挙で過去最低の17%を切る可能性もある〉(朝日新聞デジタル22日付)と指摘されている。
参院での単独過半数を維持するために必要だった67議席から10も減らした上、比例区の絶対得票率も安倍政権下では過去最低になる可能性まで──。これは明確に、安倍政権に対して「厳しい審判」が下された結果だ。
議席数や得票数だけではない。自民党は、安倍首相自ら応援に乗り込んだ重点区でことごとく議席を失っている。その最たるものが、秋田選挙区と新潟選挙区だ。イージス・アショア問題や原発再稼働問題を抱える秋田、自民・塚田一郎候補の安倍総理と麻生副総理への「忖度」発言を抱えていた新潟には、安倍首相が2回も応援に駆け付けた。しかし、自民現職候補を破って野党統一候補の新人が当選したのだ。
他にも、沖縄選挙区の野党統一候補が勝利したし、加計学園問題の舞台であり安倍首相も応援に入った愛媛選挙区でも野党統一候補が当選した。辺野古新基地建設、イージス・アショア配備、原発再稼働、加計学園問題の舞台という安倍政権の問題が凝縮した地域でことごとく安倍自民党は敗北を喫したのである。
今回から1人区となった宮城選挙区では、安倍首相が公示日に応援に駆け付けるなど党をあげて力を注いだ現職の愛知治郎候補が野党統一候補に破れ、参院で自民は宮城の議席すベてを失う結果に。同様に、山形選挙区でも自民の現職だった大沼瑞穂候補が野党統一候補に敗れたことで、60年振りに山形で議席を失った。
さらに、安倍自民党の求心力の低下を印象付けたのは、元首相補佐官で安倍首相の側近である礒崎陽輔が現職だった大分選挙区で、新人の野党統一候補に約1万6000票差をつけられて落選したことだ。礒崎氏は首相補佐官時代の2015年に安保法制審議をめぐって「法的安定性は関係ない」などと暴言を吐いて謝罪に追い込まれたが、今回は安倍首相が応援に駆け付けたというのに落選したのである。
にもかかわらず安倍首相や自民党は、あたかも勝利したかのように振る舞っている。
これは、国民に“自民党圧勝”のイメージを植え付けることで、安倍首相の権力を維持させ、冒頭で述べた改憲論議のように、政策をゴリ押しするためだ。