佐藤が総理役を演じた『空母いぶき』には、印象的なシーンがある。
他国から攻撃を受けたとき、副総理が「いま全軍の力をもって一気に敵に叩きにかからなければ、この戦(いくさ)、本当に負けるぞ」と佐藤演じる総理にけしかける。すると、佐藤演じる総理は静かに、しかし強くこう反論するのだ。
「戦後、数多くの政治家がこの国の進路を決めてきました。議論は百出し、議場には絶えず怒号が溢れていた。しかし、そんな彼らが一丸となって守りつづけてきたことが、たったひとつだけあります。それは、この国は、日本は、絶対に戦争はしないという国民との約束です。軽々しく「戦(いくさ)」などという言葉を使わないでいただきたい」
しかし、現実のわたしたちの前にいるのはまったく逆の人物だ。「わが国の領土と領海は私たち自身が血を流してでも護り抜くという決意を示さなければなりません」(「ジャパニズム」2012年5月号/青林堂)だの「(尖閣問題では)外交交渉の余地などありません。尖閣海域で求められているのは、交渉ではなく、誤解を恐れずにいえば物理的な力です」(『美しい国へ』文藝春秋)だの、物騒な発言を軽々しく繰り返してきた男が、総理大臣なのだ。
そして、日本をもう一度戦争に引きずりこもうとしているこの総理大臣には、メディアに影響力をもつ狂信的な応援団がくっつき、「安倍批判につながる発言は1ミリも許さない」と、検閲を行って、批判を封じ込めている。
佐藤が映画で語った「戦争をしないという国民の約束」はまさに、風前の灯火と言っていいだろう。
(編集部)
最終更新:2019.05.16 12:04