伊藤氏は、その安倍周辺が「生前退位のおことば」へ介入した部分を具体的にこう書く。
〈関係者によると、原案には欧州の王室における生前退位の近況を引用した部分が二ヵ所あった。王室は国民に語り掛ける機会が多く、先代が亡くなった後、喪に服す期間が日本ほど長くないことが書かれていたという。衛藤氏はこれを「神話から生まれた万世一系の天皇が、権力闘争の末に登場した欧州の王室の例に倣う必要はない」という理由で削除し、宮内庁も受け入れた。〉
つまり、明治期につくられた“万世一系の神話的イメージ”を現代の天皇制に押し付け、明仁天皇が美智子皇后とともに築いた“象徴天皇像”を矮小化しにかかったわけである。まさしく、安倍政権の復古的天皇観を裏付ける話だ。
しかも、伊藤氏によれば、安倍側による「生前退位のおことば」への介入はこれだけではなかった。〈天皇の葬儀とその後一年続く関連行事、さらに天皇即位の行事に終われる皇族の負担を懸念する箇所も「絶対的な立場の天皇が、進退を決める理由に家族の問題を引き合いに出すのは庶民と同じでいかがなものか」と指摘され〉、摂政を置くことを明確に否定した部分についても削除を求めていたという。
結果的に、これらは〈天皇の強い意思〉で残ったというが、いずれにせよ、安倍首相周辺や日本会議は、たとえ天皇であったとしても、自分たちの“都合”に合わないならば平気で「おことば」をねじ曲げようとするのだ。
生前退位をめぐっては、安倍応援団の右派から「憲法違反の疑いがある」「天皇の政治利用につながる」などと言って反対の声をあげるという、ある種の逆転現象が起きたが、実際はどうだ。「生前退位のおことば」の主な内容は、日本国憲法が定める「象徴天皇」の安定化を訴えるという至極まっとうなものだったが、官邸の介入は明らかに、天皇を絶対的な頂点とした戦前・戦中のイメージ復活への欲望が透ける。安倍首相のほうがよっぽど「天皇の政治利用」としか言いようがあるまい。
いま、特番を流しているテレビや特集を組んでいる新聞は、明仁天皇・美智子皇后への“慰労ムード”ばかりを醸し出しているが、今回の天皇退位を巡る一連の流れの裏に、安倍官邸と自称「保守派」による復古的イデオロギー剥き出しの抵抗があったことを忘れてはならない。
そして、こうした右派の欲望は、明日、天皇に即位する徳仁皇太子へ必ず向けられていくだろう。実際、その具体的な動きも少しずつ表沙汰になっている。これについては近日中に稿を改めてお伝えすることにしよう。
(編集部)
最終更新:2019.04.30 11:19