ところが、安倍首相は今年の年頭所感でも「150年前、明治日本の新たな国創りは、植民地支配の波がアジアに押し寄せる、その大きな危機感と共に、スタートしました。国難とも呼ぶべき危機を克服するため、近代化を一気に推し進める」などと語ったように、明治の精神をこれからのモデルにしようと国民に呼びかけている。
侵略戦争や人権侵害などの負の歴史を完全にネグり、ひたすら明治を賞賛する安倍首相の思想が、皇室を国民支配のシステムとする復古的な国家観に根ざしていることは、本サイトでもたびたび指摘してきたとおり。安倍首相は政治力を総動員してこの明治礼賛プロジェクトを推し進めてきた。
たとえば、今年秋に福井県で開催された福井国体と全国障害者スポーツ大会の名称に「明治150年」という冠称を付けることをスポーツ庁が福井県に要請。日本体育協会は2017年8月25日、その通りに決定した。「明治150年」という冠称を付けることについては、福井県労連など7団体が反対の申し入れをおこない、「国体は戦後に始まったものであり、明治とは無関係。明治150年で真っ先にくるのは『戦争の100年』という記憶であり、冠にふさわしくない」と県民、県議会での議論を求めていたが、そうした意見は撥ねつけられた。
さらに、2017年1月には、明治維新から150年の記念事業として明治期の国づくりなどを題材とした映画やテレビ番組の制作を政府が支援することを検討しているという報道がなされた。菅義偉官房長官はこれに関し、「大きな節目で、明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは重要だ」とコメント。なぜ「明治期の国づくり」限定で国が金を出すのか、とても納得できるものではないが、このとき映画監督の想田和弘氏は、ツイッターで以下のように怒りを表明している。
〈戦時中の国策プロパガンダ映画を思い出す。つまらない映画にしかならないことは確実だが、映画を馬鹿にするんじゃないよ。映画は政治の道具ではない〉
しかし、官邸ホームページには「明治150年ポータルサイト」なるサイトが開設され、「明治150年」関連施策として実に100を超える事業がラインナップされた。今年10月の「明治150年」政府式典は、こうした安倍政権による明治回帰キャンペーンの集大成でもあった。