つまり、従来の慰安婦問題の「イメージ」、すなわち日本軍による強制性は、いわゆる吉田清治証言と朝日新聞報道が「捏造」した「空想の産物」に依拠しており、日本政府の強制性はないとの言い分は「無視されている」と主張したのである。
愕然とするほかない。人々の人権をいかに守るか、侵害された人権をいかに回復させるかについて国際社会が知恵を振り絞って議論し、コンセンサスを得ようとする国連の人種差別撤廃委員会で、あろうことか、日本政府代表は例の“従軍慰安婦は吉田清治と朝日の捏造”というネトウヨそのもののデマカセと矮小化を図ったのだ。
もっとも、日本政府が国連の委員会で吉田証言と朝日バッシングを使って強制性を否認しにかかったのは、これが初めてのことではない。2016年2月16日の国連女性差別撤廃委員会での対日審査では、当時の杉山晋輔外務審議官(前事務次官、現駐米大使)が同様の趣旨を発言。その2日後には朝日新聞が外務省に「根拠を示さない発言」として文書で申し入れをしている。
こうした日本政府代表の発言は、まるで従軍慰安婦の問題が吉田清治証言にのみ依存しているような言い振りだが、言うまでもなく、そんなわけがない。だいたい、吉田証言自体、1990年代後半にはすでに信憑がないことが確定的だったし、実際、朝日が2014年に取り消したのはその吉田証言に関することだけだった。しかし、朝日の訂正以降、安倍応援団の極右界隈とネトウヨたちは勢いづき、その枝葉末節をもって慰安婦自体がなかった、あるいは慰安所はあったが軍の関与ななかった、というような虚説を垂れ流しまくっている。
だが、日本軍が侵略したアジアの各地に慰安所をつくったことは残された軍の記録や通達からも明らかであり、歴史学的にも議論の余地はない。軍が斡旋業者を使って騙して女性を連れ出した証拠や、現地の支配者や村長に命じて女性を差し出させた証拠もいくらでもある。そして、慰安所で現地の女性や朝鮮半島から連行した女性を軍が性搾取したことは、多くの被害女性だけでなく、当時の現地関係者や元日本兵、元将校なども証言していることだ。