ちなみに著者の掛谷氏といえば、「イラネッチケー」なるNHKだけを映らないようにするアンテナフィルターの開発者としても知られるが、試みに氏のTwitterをのぞいてみると、ネトウヨ議員である自民党・杉田水脈議員や、あの百田尚樹センセイ、石平氏、有本香氏、落語家の桂春蝶など“そっち系”の人たちをはじめ、あげくネトウヨ系まとめサイトをリツイートするなど、ある種の傾向が透けて見えなくもない。
が、そんなことはどうだっていい。問題は、この筑波大の准教授が「学問の政治からの独立」を盛大に勘違いしていることだ。たとえばこんな主張である。
〈学問が本来の機能を果たすためには、政治的に中立でなければならない。にもかかわらず、学者が自ら「安全保障関連法に反対する学者の会」のような政治運動を主導するとは、私は全く信じられない思いだった。普段、大学の自治や学問の政治的独立を声高に主張する人々が、自ら学者の名で政治運動にコミットすることの矛盾は、まともな理性の持ち主なら気づかぬはずはない。〉(「正論」より)
そもそも、学者が安保法制に反対することが「政治偏向」になるという主張自体が恣意的だ。
周知の通り、安保法制はほとんどの憲法学者が憲法違反だと指摘しており、世論調査でも当時約8割が「政府の説明は不十分」という意見だった。そんななか、学者らもその見識と良心にしたがって反対の声を上げた。掛谷氏が槍玉にあげる「安全保障関連法に反対する学者の会」もそうした学者たちが集まった団体だ。別に当然のこととしか言いようがない。
だいたい、掛谷氏が罵倒する「左翼」でもなんでもない大勢の人たちも安保法制に反対していたわけで、しかも、学者の肩書きで政治的にコミットをしているのも「左翼」だけではない。たとえば、日本会議系の改憲推進団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の役員名簿には、右派の学者が大学の肩書き付きで多数名前を連ねているし、氏が寄稿した「正論」の執筆陣だって同様に、大学教授たちがコッテリした政治運動そのものの文章を寄せている。
掛谷氏は〈学者たちが学者の肩書きを使って右翼的な政治活動を始めれば、私はここで用いた論拠に基づいて同じように批判する〉と書いているが、であればなぜ、氏が「左翼」と見立てるところの「安全保障関連法に反対する学者の会」だけを「大学政治偏向ランキング」の指標としたのか。あまりに恣意的すぎて真面目に突っ込むのもバカらしくなる。