そして、こうしたスタジオの空気を支えているのは、松本人志の存在である。松本は、山口の問題では「これが『ハニトラ』だって言うてる奴がいるんですけど、いや、アホかと」と発言するなど一貫して批判的な態度をとっているが、一方、財務省の福田淳一・前事務次官のセクハラ問題では、そのハニートラップ説を唱えていた。
「テレ朝さんは、いやいやそれは違うセクハラがすべてなんだって言うんだけど、でもそこに行かせたんだったら、これはパワハラじゃないのか、ということになってくると僕は思うんですね。でもテレ朝さんが『いやパワハラじゃない』と言うんだったら、女性は自ら前のめりにこの1年間、取材をしてきたのか。そうなったらなったで、これはハニトラじゃないのか、ってことになってくるんですよ」
「どれも全部一本じゃないと僕は思うんですよね。ですので、僕の見解としましては、セクハラ6、パワハラ3、ハニトラ1でどうですか?」(4月22日放送)
テレビ朝日の女性記者はセクハラ被害を受けて、1年前から福田事務次官と夜に会合をもつことを避けていたことがこの少し後に明らかになったが、それ以前に、あの福田事務次官の「胸、さわっていい?」などの発言を聞けば、「ハニトラ」などありえないことは明らかだ。にもかかわらず、松本は被害者女性を攻撃したのだ。
しかも、呆れたのは翌週の放送。4月29日放送回では、ハニトラ説を主張したことが批判されたことを自ら取り上げ、「(ハニトラの)『その可能性もあるよ』と(言っただけ)」「断言はしてないですよ。10のうち1はあるかなって言ったんですけど。『松本がハニトラだって言ってる』みたいになっちゃったりして」と不満を漏らしたのだ。
「10のうち1」などというのが言い訳になるわけがない。前述したようにこのケースで、たとえ「1」でもハニトラなどありえず、それをわざわざ“はめられた”と主張するのは、加害者である福田次官を擁護するためとしか考えられない。
しかも、実際の松本は「ハニトラ1」と言っただけではない。その発言の後も松本は「ハニトラないかな?」としつこくハニートラップ説を展開。たまりかねたフジの山崎夕貴アナが「(ハニートラップは)考えにくいと思います」「パワハラに関しては、上司からこの人に取材するようにっていう担当が決められちゃったら、嫌なことがあってもすぐに上司に上げるっていうのは自分のなかなかで責任感があったらなかなかできない」と真っ当な反論をおこなったが、しかしそれでも松本は「ハニートラップないかな〜」と言い募っていた。
松本は批判されたので慌てて「断言してない」などと言い訳しているが、そもそも「セクハラ」が悪いことだとは思っていないのだろう。むしろ「セクハラぐらいでガタガタ言うな」というのが松本の本音ではないのか。
じつは松本のセクハラに対する無神経さは、4月15日放送の回でも見てとれた。この放送回では元NHKの登坂淳一アナウンサーを出演させセクハラ・パワハラ問題について釈明させたのだが、松本はゲストコメンテーターとして出演していた芸人のいとうあさことこんな会話を繰り広げた。
松本「たとえば、俺がいとうあさこと飲んでてさ、急にブッチューってキスしたら、それはセクハラになる?」
いとう「超うれしい!」
松本「そう、そう、ね! でもそれがまた俺のパワハラやって言う人もいるから。それは『いとうあさこ、そう言うしかなかったよね』って」
いや、それは芸能界、芸人の圧倒的な上下関係を考えれば、「そう言うしかない」だろう。こうして力関係で女の声を奪い、セクハラ行為を正当化し、それを笑い話にしてしまうことは、害悪以外の何物でもない。