だが、こんななかでおこなわれた今回の憲法をめぐる世論調査では、危機感を抱かずにいられない数字が並んだ。
たとえば読売新聞では、改憲について「改正する方がよい」が51%、「改正しない方がよい」が46%。NHKも憲法改正の必要について「必要」と答えた人が29%、「必要ない」が27%となった。毎日新聞は自民党改憲案に「賛成」すると答えた人が27%、「反対」が31%と反対が多いものの、拮抗していることに変わりはない。
もちろん、この結果は半数近くの国民がいますぐの改憲を望んでいるということではない。たとえば、“安倍政権下での改憲に賛成か反対か”と具体的に質問した朝日新聞の調査では、「賛成」と答えた人は30%、「反対」は58%にもおよんでいる。また、NHKでは「いま憲法改正議論を進めるべきか? ほかの問題を優先すべきか?」という質問をおこなっているが、「ほかの問題を優先すべき」が68%となり、「憲法改正の議論を進めるべき」の19%を大きく上回っている。朝日でも、優先的に取り組んでほしい政治課題は「景気・雇用」が60%、「高齢者向けの社会保障」56%、「教育・子育て支援」50%とつづき、「憲法改正」は9つある選択肢のなかでもっとも少ない11%となった。
さらに、御用マスコミの調査結果には不審な点がいくつもある。読売は「国会が憲法改正を発議する時期は、いつがよいと思いますか」という質問もおこなっているが、「2018年中」が11%、「2019年の参院選の前」が16%、「2020年まで」が22%、「2021年以降」が21%。合計すると、憲法改正発議に賛成した意見は70%になる。一方、「憲法改正を発議する必要はない」と答えた人は20%しかいない(「その他」「答えない」は合わせて10%)。前述の改正の是非を問うた質問では、憲法を「改正しない方がよい」と答えた人は46%だったはずなのに、数字がまったく合わない。これにはトリックがあって、その前の質問で「国会での発議について、あなたの考えに近いのはどちらですか。」と問うているのだが、その選択肢は「改正に前向きな勢力の賛成で、なるべく早く発議すべきだ」(27%)「時間がかかっても、なるべく多くの政党の賛成で発議すべきだ」(70%)「答えない」(3%)の3つだけで、「発議する必要はない」という選択肢がないのだ。
読売は9条改正についても質問しており、「賛成」55%、「反対」42%となぜかこちらも賛成が憲法改正賛成の数字を上回っている。これは「戦争の放棄や戦力を持たないことなどを定めた今の条文は変えずに、自衛隊の存在を明記する条文を追加することに、賛成ですか、反対ですか」と誘導的な質問をしたためだろう。
ちなみに、NHKでは「9条を評価するか」という質問で「評価する」と答えた人が70%に達しており、朝日も9条の改憲の是非は「変えるほうがよい」32%に対して「変えないほうがよい」は63%だった。同じ読売でも、戦争放棄を定めた第1項改正の必要の有無にかんしては「ある」が15%、「ない」が82%と高い数字となっている。
安倍首相は「いよいよ憲法改正に取り組むときが来た」「主役は国民だ」と声高に叫ぶが、実際には国民のあいだで改憲への気運が高まっているという状況ではまったくなく、なかでも9条の平和主義を守りたいという思いは広く国民に共有されていることがよくわかる。
だが、一方で、国民のあいだに「内容はよくわからないけど、変えられるなら変えたほうがいい」というざっくりとした意識がどんどん浸透していることは事実で、これは安倍政権や改憲勢力、御用メディアによるプロパガンダが徐々に浸透している結果だろう。