ただし、蓮池薫氏の発言の中身そのものはけっして、感情論ではない。むしろ、そのベースには、北朝鮮の情勢に対する冷静な分析と戦略がある。少し長くなるが、可能な限り忠実に紹介しよう。
「私は、北朝鮮という国が拉致を認めたという理由は、2002年、つまり日本との関係改善といわゆる国交正常化とその後にある植民地支配に対する賠償に対する日本の支払いですよね、1兆円とか2兆円とかいう莫大な経済的支援が得られるというのがあったから動いたと思うんですね。
その状況が、2006年ですか、北朝鮮が核実験をやりミサイルを撃ち、ということのなかでかなりトーンダウンしてしまった。平壌宣言はもう話にも上がらなくなってしまった。こういう状況で北が動くモチベーションというか、動機というのはなくなって、ほぼ見えなくなってしまった。
ところが現在、米朝間で制裁やら軍事的圧力の結果でもあるかとは思うんですが、北が非核化に動こうとする兆しが見えてきたんです。これはつまり、核ミサイルの問題が解決する可能性が見えてきている。ならば、そこに拉致問題さえ解決すれば、あの2002年の平壌宣言がもう一回復活する可能性が出てきているわけです。だから、非常に大きなチャンスが今到来しつつあるのかなと、大きな期待をしているわけです」
「(北朝鮮が経済発展を考えたとき)そこで大きな役割をできるのは日本というのは、しっかり頭に入っていると思うんです。ですから、その時に日本がうまく交渉をしてですね、2002年の状況をもう一回回復し、先に進みましょうと。北にとっては非常に興味があるといいますか、十分に動く動機となる状況がつくられるとは思います」
蓮池薫氏は現在の北朝鮮の姿勢が核開発と経済成長の両方を進めようとした「並進路線」を終わらせ経済一本に転換しようとしているとみており、日本側が2002年の平壌宣言に立ち戻り、植民地支配を謝罪し経済協力を実施する姿勢を見せれば、拉致問題が大きく動くチャンスがあると冷静に分析しているのだ。
メディアではさまざまな自称“北朝鮮専門家”が登場して、その思惑を解説しているが、この薫氏の発言はなかでも最も冷静で説得力のある分析と言えるだろう。
しかし、問題はこの蓮池薫氏の言葉が、安倍政権やマスコミに届くのか、ということだ。何度でも繰り返すが、安倍首相やその周りの右派勢力は拉致問題解決をめざしているわけでなく、改憲や愛国心強制に拉致問題を政治利用しようとしているにすぎない。そんな安倍首相が自分の支持層である右派勢力の反発を招いてまで、北朝鮮への経済協力に踏み切るとはとても思えないのだ。もちろん、いまも拉致タブーに縛られ、「北朝鮮に騙されるな」と叫び続けているマスコミもしかりだ。
本サイトは、この問題について、安倍政権の拉致問題政治利用やマスコミの圧力扇動を批判してきた薫氏の兄である蓮池透氏に単独インタビューを行った。
その内容を近く配信する予定なので、こちらもあわせて読んでいただきたい。
(編集部)
最終更新:2018.05.01 12:14