そもそも、暴言を浴びせた幹部自衛官の思想性については現時点では定かではないが、「お前は国民の敵だ」「お前の国会での活動は気持ち悪い」というセリフからは、天皇崇拝や国体思想ではなく、ある種、安倍政権下で跋扈しているネット右翼との親和性を感じさせる。
周知の通り、ネトウヨたちは、安倍政権とその支持者を「味方」、批判者を「敵」として分かち、後者へ「反日」「国賊」「非国民」のレッテルを貼って血祭りにあげようとする。社会学者の宮台真司氏はこうした習性を「感情の劣化」と指摘しているが、幹部自衛官が小西氏に向けた「気持ち悪い」との感情の吐露はまさにその点において“ネトウヨ的”と言える。
あるいは、ネトウヨから絶大な支持を得ている作家・百田尚樹のことを思い出させる。百田氏は1月、〈朝日新聞は日本の敵だが、そんな売国新聞を支えている朝日の読者も日本の敵だ〉とツイートした。自分たち(安倍政権と応援団)を「日本」と措定し、その対岸に朝日新聞と一般市民である同紙読者を「敵」と位置づける言辞である。「日本」は自己正当化のための装飾にすぎず、決して国民一般を代表するものではない。
また、「敵」と「味方」を恣意的に区分し、対立を煽ることで支持の源とする政治手法は、安倍首相の最も得意とするところだ。昨年の都議会選の応援演説で政権を批判する市民に向かって「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫んだのは記憶に新しい。こうして国民を敵と味方に分け、自らを批判する者を「こんな人たち」扱いし、総理大臣として奉仕すべき全体から排除する。それが安倍政権だ。
実際、安倍政権のもとでは実力組織による市民の弾圧・差別が続発している。たとえば昨年、安倍政権が沖縄県高江で強行している米軍ヘリパッド建設をめぐり、大阪府警の機動隊員が反対派市民に「ボケ、土人が」などと差別発言を繰り出した一件だ。この「土人」発言は、治安組織が守るべき「国民」を明確に敵と味方に分けていた。安倍政権の政策に反対する市民に対しては何をやっても許されるという空気が組織内で蔓延しているのではないか。
また、国会前での政権批判デモに対しては警察による過剰警備が相次いでいる。弁護士有志による「官邸前見守り弁護団」が3月29日に警視庁へ提出した申し入れ書によれば、〈参加者の体に背後から肘打ちしたりするなどの暴力を振るっていることが参加者の多数の証言から明らかとなって〉おり、〈警察官が参加した市民に対して「一般の人はデモには来ません」(つまり、デモに来ている人は一般人ではないということ)などと冷笑しながら言い放つなど、極めて侮辱的発言・態度を取るに至っている〉という。ここからも、政権を批判する人々が「国民」から除外されていることがわかる。