周知の通り、昨年12月にドイツで行われたワールドカップの際、運送機関のトラブルにより、下町ボブスレー製のソリが現地に届かず、窮余の策としてBTC社のソリを使ったところから、この問題は始まっている。
このときに使われたBTC社のソリにジャマイカのステッカーが貼られていたことから、日本のワイドショーでは、このときのトラブルがあらかじめ仕組まれたものであったかのような陰謀論が繰り返し報じられている。『ガイアの夜明け』でも、下町ボブスレー側が「新車のBTCでラッピングされているっていうのはなんでなんだろうって。傷一つないソリを提供することはどこかで決まっていたんだろうな」とカメラの前で愚痴を言う場面を報じている。
『ガイアの夜明け』が、ジャマイカのボブスレーチームと下町ボブスレーの蜜月を壊した黒幕としてサンドラ氏の名を挙げる理由は他にもある。
番組では、ラトビアのテレビ局がBTC社の工場を取材したときの映像を解析し、そこにBTC社の社長とサンドラ氏の2ショット写真があることを指摘。また、サンドラ氏はBTC社のソリの開発にも関わっていたとも報じたのだ。
もう巷間言われ尽くしていることだが、この物語には無理があり過ぎる。そもそも、ドイツでのワールドカップの際に起きた運送機関のトラブルはストライキであり、そんなものをたかだか一国のボブスレーチームが意図的に起こすことができるはずがない。
また、これも周知の通り、サンドラ氏は試合直前にジャマイカチームのコーチを辞任しているが、それでもなお、ジャマイカはBTC社製のソリで試合を戦っている。本当は下町ボブスレー製のソリのほうが質が高いのに、サンドラ氏とBTC社が裏で通じていて利益供与の関係があるために下町ボブスレーを反故にしたのであれば、この段階でBTC社から下町ボブスレーに乗り換えたはずだ。
実際、ラトビア製のソリは性能が高く、平昌五輪の開催地である韓国も自国企業のヒュンダイがソリを開発していたのにも関わらず、男子2人乗りはラトビア製を使用することを決定した。そもそも、日本のボブスレーチームですら、下町ボブスレーのソリを使っていない。ソチオリンピックに出場した際の日本代表チームもBTC社製のソリを使っているのだ。
下町ボブスレーに密着するカメラは、ワールドカップ第5戦の会場であるオーストリアにまで下町ボブスレーのスタッフが赴き、ジャズミン・フェンレイター選手から、BTC社製のソリとの違いや、下町ボブスレー製のソリに関してフィードバックをもらう場面にも同行している。このとき、サンドラ氏が話に割って入ってくるのだが、そこで彼女はこのように指摘する。
「私たちはソリをつくっているわけじゃない。パイロットなのよ。良いソリか、悪いソリかしか分からないわ。ソリのことはメカニックに聞いてよ。あなたはソリに乗ったことがないでしょ? まずは、その経験が必要ね。それと、ボブスレーを知っている人の話をもっと聞きなさいよ」