『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社新書)
きのう、平昌五輪が幕を閉じた。開会式・閉会式では平和への強いメッセージが発信されたが、あらためて不安になったのが2020年の東京五輪の開会式・閉会式だ。というのも、開会式・閉会式の演出チームで構成・ストーリーを担うとされる山崎貴監督は、あの百田尚樹原作の特攻礼賛愛国ポルノ映画『永遠の0』を監督した人物だ。
こんな映画の監督が、世界的イベントであるオリンピックの開会式・閉会式の演出を務めるなど、どう考えても正気の沙汰ではない。世界中の顰蹙を買う可能性だってあるが、残念ながら現在の日本ではそうした批判の声は少なく、むしろ特攻を美化する風潮のほうが根強い。
そんななか、ある特攻に関する本が大きな注目を集めている。劇作家の鴻上尚史氏が書いた『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社)は、発売されてすぐに増刷を重ね、たちまち話題作となった。
『不死身の特攻兵』は、陸軍の第一回の特攻隊「万朶隊」に所属していた佐々木友次氏について書かれた本。佐々木氏は特攻隊員として9回出撃し、いずれも生還。終戦まで生き残った人物として知られている(2016年2月に逝去)。彼はなぜそのような数奇な運命をたどることになったのか。
確実に作戦を成功させるため、初期の特攻兵は操縦に長けた優秀なパイロットが選ばれた。佐々木氏の所属する万朶隊も、佐々木氏含め腕利きのパイロットが選ばれたのだが、だからこそ自分の能力をふるう機会すら与えられない特攻の命令には大きな疑問をもっていた。
また、卑劣なことに、彼らが特攻で使う九九式双発軽爆撃機は爆弾が機体に縛り付けられており、パイロットが死を恐れたとしても爆弾を落とせないため、体当たりするしかないようにされていた。
万朶隊を率いた岩本益臣隊長はこの設計に憤り、独断で爆弾を落とすことができるように改装させた。そのことを万朶隊の面々に説明するとき、岩本隊長はこのように語ったという。
「このような改装を、しかも四航軍の許可を得ないでしたのは、この岩本が命が惜しくてしたのではない。自分の生命と技術を、最も有意義に使い生かし、できるだけ多くの敵艦を沈めたいからだ。
体当たり機は、操縦者を無駄に殺すだけではない。体当たりで、撃沈できる公算は少ないのだ。こんな飛行機や戦術を考えたやつは、航空本部か参謀本部か知らんが、航空の実態を知らないか、よくよく思慮の足らんやつだ」
加えて岩本隊長は、「これぞと思う目標を捉えるまでは、何度でも、やり直しをしていい。それまでは、命を大切に使うことだ。決して、無駄な死に方をしてはいかんぞ」としたうえで、「出撃しても、爆弾を命中させて帰ってこい」と語ったという。
結局、岩本隊長は万朶隊として出撃する前に戦死してしまうが、佐々木氏はこの命令を守り、爆弾を落として帰ってきた。
佐々木氏が帰ってきたのは、「体当たりにより戦艦を撃沈」との大本営発表が出された少し後のこと。そして、佐々木氏の帰還に対する司令官の対応は人の命を命とも思わない酷いものだった。