そもそも今回の渡具知氏勝利の裏には、渡具知氏の“二枚舌”作戦があった。市議時代に基地容認発言をしていた渡具知氏だったが、昨年12月、基地反対の公明党沖縄県本部と「海兵隊の県外・国外移設」を盛込んだ政策協定を結んで推薦を勝ち取り、2000票以上と言われる公明党の後押しを受けて当選。メディアが「公明党推薦が勝因」とそろって報じたのはこのためだが、こうした二枚舌と、「辺野古の“へ”の字も言わない」という自民党の卑劣な作戦のもと、渡具知氏は辺野古移設の賛否について姿勢をあきらかにせず、公開討論をすべて拒否した。つまり「基地容認イエスかノーかの民意」を示す機会を有権者から奪ったともいえるのだ。
「辺野古が唯一の解決策」として海兵隊用の新基地建設に邁進する安倍政権だが、渡具知氏は市長選勝利の鍵となる「公明党推薦」を得るために、「海兵隊の県外・国外移転」という公明党の政策を丸呑みした。
民間企業に例えると、こんな話になる。〈渡具知氏は役員会議の第一議題「基地政策」で従来の海兵隊用新基地建設の持論を撤回、「海兵隊の県外・国外移転」に転向して仲間を増やすことを優先、自派閥の多数派工作に成功。そして、最優先の第二議題「地域振興」で独自案の国際リゾート産業振興を提案、相手派閥のパンダ誘致案に勝利した。だから役員会議の結論は「海兵隊の県外・国外移転(=海兵隊用新基地建設は不要)」と「国際リゾート産業構想の採用」となる〉。
会議中は発言をせずに終了後に結論を自分勝手に捻じ曲げる小心者の重役と、選挙中は辺野古新基地の“へ”の字も言わずに後から「民意は基地容認」と言い出す政権中枢幹部が二重写しになる。会議でも選挙でも、意見の異なる相手との論戦に勝ち抜かない限り、自分の主張が正しいと認められることはない。市長選の民意は「海兵隊の県外・国外移転(=辺野古新基地不要)」や「国際リゾート産業構想採用」ではあっても、渡具知氏が降ろした旗の「基地容認」であるはずがない。会議中に賛否の論議がされなかった提案が採用されないのはごく当り前のことだ。
名護市長選の結果に基づいて、渡具知市長が掲げた「海兵隊の県外・国外移設」、つまり不要となる海兵隊用の新基地建設阻止を進めるのが民主主義の原則であり、原点なのだ。渡具知氏が訴えなかった基地容認の方が民意を反映しているというのはおかしい。4年前に落選をした自民系候補が訴えたが、今回は不採用の基地容認の公約が優先されることはない。