『1984』のような極端な状況にはなるはずがないと笑う人もいるだろうが、はたしてそうか。事実、安倍政権はアベノミクスで国民の生活がよくなったと繰り返し、都合のよい数字だけを並べ立てることで国民の実感のほうが間違いだと印象付けようとしている。そして、テレスクリーンの代わりに人々はインターネットを毎日利用していて、自由で民主的な装置だと錯覚しながら、得られる情報を鵜呑みにしているではないか。
さらに、『1984』を想起させられるのが、値段は変わらないのに、いつのまにか食料品の容量が少なくなっている、という問題だ。
これは「スモールチェンジ」と呼ばれ、例の「#くいもんみんな小さくなってませんか日本」というハッシュタグが指摘したが、まぎれもない事実である。パックの牛乳、チーズ、ソーセージ、ミートソース、ジャム、果てはスーパーのおにぎりまで、実例を挙げればきりがない。ほかにも、茶色の包みでおなじみの板チョコ「明治ミルクチョコレート」は2014年に5グラムの減量をした。パッケージはそのまま、少しだけサイズダウンしていたのだ。一見しただけでは気がつかない。
「#くいもんみんな小さくなってませんか」を特集したNHK『クローズアップ現代+』(1月18日放送)では、その理由として原料調達コストの高騰が挙げられた。実態を調査した渡辺努・東京大学大学院教授によれば、2008年に海外の穀物や原材料が上がったため、スモールチェンジが大量に発生したという。その後、スモールチェンジの動きはおさまったかに思えたが、2013年から3年連続でまた増えていた。
渡辺教授は、アベノミクスのスタートと日銀による異次元金緩和の影響を指摘する。これらが円安をもたらしたことで原価が上昇。結果、“いつのまにか食べ物が小さくなっていた”というわけである。メーカー側が原価上昇分を値上げしようと思っても、冷え込む消費者心理から上げられないのだろう。背景にはやはり、アベノミクスの宣伝と生活の実感とを乖離させている安倍政権の経済政策があると考えざるを得ない。
安倍政権下でのエンゲル係数の上昇、Wikipediaの改変、オーウェルの『一九八四年』、そして食品のスモールチェンジは根の部分で繋がっているように思える。人々の生活は苦しくなっている。政府は景気回復を宣伝し続ける一方、不都合な事実は徹底して退ける。「誰か」が安倍政権は悪くないと言いふらす。チョコレートは少しずつだが確実に小さくなっている──。
さすがに、自分の「実感」までは捻じ曲げられないだろうと思うかもしれない。だが、たとえば安倍政権がしきりに持ち出す有効求人倍率にしても、メディアで就職がうまくいった学生のみがコメントばかりが使われることで、さも「景気回復」の象徴かのごとく刷り込まれているのが現実だ。このままでは、私たちの「実感」までもがいつのまにか塗り替えられかねない。少なくとも、政府の言葉はすべて宣伝であるということを意識しなおすべきだ。
(宮島みつや)
最終更新:2018.02.04 03:19