つまり、国際社会(というか欧米)向けには「先の対戦への痛切な反省」などの文言を挿入することで、安倍首相の本質である明治〜昭和の大日本帝国賛美、日本の戦争犯罪の否定などのリビジョニズムを糊塗する。他方で、直接自分の意見として明言しないなど逃げ道を作り、国内の右派・ネトウヨ向けには巧みに“自虐史観に立ち向かう安倍”“韓国・中国に屈しない安倍”なるイメージを確保する。安倍首相の歴史認識における“二枚舌”作戦とはこういうことだ。
そして、その“二枚舌”作戦の際たるものが、ほかでもない日韓合意だったのだ。
そもそも日韓合意の背景にはアメリカからのプレッシャーがあったことが知られる。米政府は当時、日本政府に慰安婦問題で謝罪をすることを厳しく要求していた。2015年10月に、オバマ大統領が朴大統領との首脳会談後の会見で「歴史的問題の決着」を強く求めたことは有名だが、それ以前から、国務省のダニエル・ラッセル東アジア・太平洋担当国務次官補やダニエル・クリテンブリンク国家安全保障会議アジア上級部長、そのほか国務省幹部がしきりに日本政府に圧力をかけていた。
だが、本サイトではその直後から喝破してきたが、その合意内容は話にならないシロモノだった。
たしかに、当時の岸田文雄外相と尹炳世外相との共同記者会見で発表された談話には、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」「安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」という記述があった。
しかし、そこには河野談話にあった強制性を認める文言は消され、安倍首相自身も公の場で「元慰安婦たちへのおわびと反省」を語ったわけでもない。その後も安倍首相は一切謝罪の言葉を述べず、元慰安婦たちが首相による「おわびの手紙」を求めた際も国会答弁で「毛頭考えていない」と全否定した。