しかし、きょうの施政方針演説でもっとも注意を向けるべきは、この一言だったはずだ。
それは、少子高齢化の次に安倍首相が口にした、演説の最大の目玉である「働き方改革」に言及するなかで発せられた。
「長年議論だけが繰り返されてきた『同一労働同一賃金』。いよいよ実現のときがきました。雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、『非正規』という言葉を、この国から一掃してまいります」
非正規という言葉をこの国から一掃する──。じつは安倍首相は2016年6月の記者会見をはじめ、この言葉を事ある毎に述べてきたが、今国会での「働き方関連改革法案」成立に血道を上げるなか、施政方針演説であらためて宣言したことの意味は重い。そして、一見すると、格差是正に向けた大胆な改革というようにも映るだろう。
しかし、騙されてはいけないのは、安倍首相はけっして「非正規雇用をなくす」あるいは「正規と非正規の格差をなくす」と言っているわけではない、ということ。たんに「非正規」という言葉を使わない、というだけの話なのである。
たしかに、働き方改革関連法案では、正社員と非正規の処遇改善を図る「同一労働同一賃金の導入」が盛り込まれ、ガイドライン案でも「基本給・各種手当、福利厚生や教育訓練の均等・均衡待遇の確保」が謳われている。だが、基本給も手当も「実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を求める」としており、能力や会社への貢献度による「違いに応じた支給」でよいと認めているのだ。これでは理由をつけることで格差もつけられるし、賃金格差は埋まらないどころか格差そのものを容認することになる。
事実、昨年3月に発表された「働き方改革実行計画」では、「正規と非正規の理由なき格差を埋めていけば、自分の能力を評価されている納得感が醸成。納得感は労働者が働くモチベーションを誘引するインセンティブとして重要、それによって労働生産性が向上していく」と説明している。ようするに、「理由なき格差」=格差に理由をつけることで納得させよう、というわけだ。
だいたい、「非正規という言葉をこの国から一掃する」という掛け声とは裏腹に、第二次安倍政権がはじまった2012年から16年までの4年間で、非正規雇用者は207万人も増加。一方、この間の正規雇用者は22万人増加でしかなく、雇用者数の9割が非正規というのが実態だ。安倍首相が成果として誇る「就業者数185万人増加」とは、不安定就労の非正規雇用者を増やした結果でしかない。つまり、「非正規という言葉をこの国から一掃する」というのは、“見かけ倒し”の同一労働同一賃金の導入によって格差を容認するための詭弁でしかないのだ。