言うまでもなく、日本において黒人差別的な表現が問題となったのはこれが初めてではない。その最たる例が、絵本の『ちびくろサンボ』だ。
始まりは1988年、ワシントン・ポストに「黒人の古いステレオタイプが日本で吹き返す」という署名記事が掲載された。日本における黒人キャラクターの人形やマネキンを人種差別的だと批判した記事だ。さらに、この記事が出た直後に、当時、自民党政調会長だった渡辺美智雄が「日本人だと破産は重大に考えるが、クレジットカードが盛んな向こう(アメリカ)の連中は、黒人だとかいっぱいいて、『家はもう破産だ。明日から何も払わなくてもいい』。それだけなんだ。ケロケロケロ、アッケラカーのカーだよ」と発言。当然ながらアメリカの日本大使館は抗議が殺到するという事態に陥った。
そんななか、大阪の一家3人で結成された「黒人差別をなくす会」が、黒人差別商品を売る企業に次々と手紙を送り「自発的な改善の実施」を呼びかけ、『ちびくろサンボ』を発行する出版社に対し、絶版を要求する運動を起こした。結果、小学館、講談社、学習研究社、岩波書店などの出版社が続々と絶版を決定。90年代後半に復刊の動きが活発となり、いまでは書店で手に取ることが可能だが、10年余りにわたって『ちびくろサンボ』はほぼ姿を消していたのだ。
このときの影響は『ちびくろサンボ』にとどまらなかった。「黒人差別をなくす会」の活動によって、「カルピス」のトレードマークだった「カルピスマーク」や、おもちゃメーカーのタカラの「だっこちゃんマーク」が使用中止に至り、腰みのを巻いた人喰いの黒いおばけが登場する『オバケのQ太郎』の「国際オバケ連合」をおさめたコミックスなども回収措置がとられた。
しかし、こうして抗議が行われたとき、企業側は「使用中止・商品回収・絶版にした理由」を明確にしなかった。どんな問題があったのか、どの表現がどんなふうによくないのか、そういったことを追及しないまま「臭い物に蓋をする」といわんばかりの対応をとる。
たとえば、前述した『オバケのQ太郎』と同時期に、同じ藤子不二雄のマンガ『ジャングル黒べえ』も回収・絶版の措置がなされているが、安藤健二『封印作品の闇』(だいわ文庫)によれば、同作に差別的だとする抗議があったのかどうかすらも怪しく、“黒人差別表現狩り”の混乱のなかで小学館と中央公論社(現・中央公論新社)が自主判断で回収・絶版措置をとったのではないかと見ている。もしこれが事実なら、“表現狩り”をしているのは、そのじつ、“事なかれ主義”の出版社のほうということになるだろう。
これではなんの意味もない。今回の『絶対に笑ってはいけない』のような騒動が起きたのは、ある意味必然とも言える。
ちなみに、15年には、『ミュージックフェア』(フジテレビ)でのコラボ企画のため、顔を黒く塗ったももいろクローバーZとラッツ&スターのオフショット写真がツイッター上に流れ大問題となったことがある。炎上したのは放送前だったため、結局、番組においてそのコラボは放送されることはなかったが、この騒動はメディアでも大きく扱われず、静かに「なかったこと」にされただけだった。