まさに「洗脳」という二文字がちらつくが、実際、貴乃花部屋の親方と弟子の関係を考えると、その可能性は十分ある。
マスコミは貴乃花親方と貴ノ岩の関係について、「本当の親子のような深い師弟愛」などと持ち上げているが、相撲界における部屋のこの疑似親子関係こそ、「親方のいうことが絶対」という強力な支配と、部屋の密室化を生み出し、相撲界の暴力の温床になってきた。そして、貴乃花部屋における親方支配の絶対性、密室性は相撲界のなかでも突出している。
日本相撲協会は2007年に起きた力士暴行死などをきっかけに、こうした部屋制度の改革を進めてきたが、貴乃花はこれを拒否し、昔ながらの閉鎖的な部屋制度をかたくなに守り抜いてきた。
たとえば、日本相撲協会は公益財団法人へ移行した2014年に、力士らが師匠を通さずに直接協会に不祥事などを伝えることができる「内部通報制度」などを定めた誓約書の提出を各部屋に求めているが、貴乃花部屋だけはいまにいたるまでその誓約書を出していない。それは、「相撲部屋では師匠が絶対」という貴乃花親方の信念があるからだといわれている。
また、2012年には、「週刊新潮」(新潮社、2012年5月3・10日号)が、貴乃花親方からくり返し暴行を受けたという18歳の元弟子の告発を掲載したこともある。このときは、協会の危機管理委員会副委員長を務めていた八角親方(元横綱・北勝海)が「貴乃花親方に事情を聴いたが、暴行の事実は否定していた。今の状況で協会が介入することはない」という結論を出して幕引きをしてしまったが、もしこれが事実なら、日馬富士の暴力を告発した当人が同じことをやっていたということではないか。
いずれにしても、こうした貴乃花親方の言動を知れば知るほど、気がかりになってくるのが貴ノ岩のことだ。貴ノ岩は肉体的にも怪我をしているうえ、貴乃花親方の極右的日本純血主義と母国モンゴルの間で完全に板挟みになっている状態だ。健康状態と精神状態は大丈夫なのだろうか。
いや、貴ノ岩だけではない。貴乃花親方のカルトぶりを見ていると、部屋全体、すべての力士たちの行く末に対して、不安が募ってくる。
実は能町氏以外にももうひとり、貴乃花親方の志向の危険性を指摘している知識人がいる。政治学者の中島岳志氏だ。中島氏は能町氏と同じ、親方の「国体」発言をとらえ、こんなツイートを連投した。
〈貴乃花親方にとって、貴ノ岩は「日本国体」に従順なアジア人という位置づけなのだろうか? 逆に白鵬などを「日本国体」に馴化しない存在とみなし、「相撲道の精神」からの逸脱と見なしているのだろうか? だとしたら、最悪の形のアジア主義のリバイバルだ。〉
〈貴乃花親方の一連の行動に、どうしても1930年代の青年将校のような「危うい純心」を感じてしまう。「国体」に依拠した大相撲協会の「改造」が行動の目的なのだとしたら、危うい。〉
〈この先、貴乃花親方が協会内で孤立し、貴乃花部屋がカルト的結社化するようなことになれば大変だ。そんなことにならないような着地点を見出してほしい。〉
この騒動、もしかしたらこの先、もっととんでもない事態に発展することになるかもしれない。
(編集部)
最終更新:2017.12.19 02:50