こうしたイオンのやり口は言論の自由を侵害する暴挙だとして大きな問題となった。それ以前にもイオンは『プライベートブランド食品の危険度調べました』(渡辺雄二/三才ブックス)、『食べるなら、どっち!? 不安食品見極めガイド』(渡辺雄二/サンクチュアリ出版)という自社に都合の悪い情報が掲載された本を店頭に並べないという手段に出たこともあった。これら一連の事態は批判的な報道や言論を徹底的に弾圧する、そんなイオンの体質が現れたものと言える。
しかも、今回は損害賠償請求額が1億6500万円である。SLAPP訴訟(嫌がらせ訴訟)としか思えないものだ。
だが裁判所にはこのところ、言論の自由を軽視し、政治家や大企業、芸能人など、強者の権利を守ろうとする傾向があり、名誉毀損裁判ではメディア側に損害賠償を求める判決を連発している。
実際、この文春とイオンの裁判でも、一審では、イオンが名誉回復に費やした広告料などを損害と認定され、また記事に真実でない部分があるとして2492万円の賠償が文春側に命じられた。
ところが今回、高裁は“猛毒米”という記事の見出しに関してだけ名誉棄損を認め、110万円の損害賠償を命じたものの、「見出し以外記事の内容は真実」という判断を下したのだ。その背景についてある司法記者はこう解説する。
「今回の判決を下した野山裁判長は、これまでにも朝日新聞の慰安婦報道や、『殉愛』問題で故やしきたかじん夫人が『サンデー毎日』を訴えた訴訟でも、国民の知る権利や、報道の自由の重要性を尊重した判決を出しています。言論について非常に造詣が深く、国民目線で考えられる裁判官です」
実際、野山裁判長は「巨額の費用を請求するのは言論や表現を萎縮させ、好ましくない」と、巨大企業がメディアに対し巨額賠償を行う、SLAPP裁判についても踏み込んで言及している。
ただ、文春とイオンの訴訟自体は、これで完全決着となるとはかぎらない。高裁判決を受け、イオン側は「判決文を精査して対応を検討する」とコメント、最高裁に上告する可能性が高いからだ。加えて現在の最高裁は、加計学園元監事など、安倍政権下の人事で選ばれた裁判官が多数を占め、国民の権利を軽視する傾向が強い。今後、司法が言論の自由を守ることができるのか、大企業による言論弾圧やいやがらせ訴訟を排することができるのか。注視する必要がある。
(編集部)
最終更新:2017.11.29 11:28