実際、文書では〈戦いの連鎖を作る「報復」〉と、わざわざカッコに入れ、「報復」を強調するかたちで否定していた。言うまでもなく、半島情勢は北朝鮮の“暴発”と、アメリカの先制攻撃、あるいは日米韓合同の報復攻撃による戦争勃発が懸念されている。美智子皇后がこうした状況を念頭に置いていたとしても、何ら不思議ではない。
さらに文書のなかには、安倍政権が武器輸出入政策や防衛設備の投資、軍学共同政策、そして安保法や9条改憲などで進めようとしている“軍事国家化”に異議を唱えるようなくだりもあった。皇后は、アメリカ、フランスの政権交代、イギリスのEU離脱、各地でのテロの頻発など、世界情勢の不安定化について触れるなかで、中満泉氏が日本人女性として初めての国連事務次長で、国連軍縮担当のトップである軍縮担当事務次長・上級代表に就任したことを〈印象深いこと〉として、このように記している。
〈「軍縮」という言葉が、最初随分遠い所のものに感じられたのですが、就任以来中満さんが語られていることから、軍縮とは予防のことでもあり、軍縮を狭い意味に閉じ込めず、経済、社会、環境など、もっと統合的視野のうちに捉とらえ、例えば地域の持続的経済発展を助けることで、そこで起こり得る紛争を回避することも「軍縮」の業務の一部であることを教えられ、今後この分野にも関心を寄せていく上での助けになると嬉しく思いました。国連難民高等弁務官であった緒方貞子さんの下で、既に多くの現場経験を積まれている中満さんが、これからのお仕事を元気に務めていかれるよう祈っております。〉
一方、日本政府が今年国連に提出した核廃絶決議案では、核廃絶や軍縮に関する表現が大きく後退したと報じられている。日本は核廃絶決議案を毎年国連に提出しているが、たとえば昨年まで「あらゆる核兵器使用」が「破滅的な人道的結果」を招くと明記していた部分から「あらゆる」を削除。“一部の核兵器使用はありうる”と受け取れる表現に変えたのである。
まったく“唯一の戦争被爆国”の政府の言葉とは思えないが、本サイトで報じてきたとおり、そもそも安倍首相自身、本音では“核の保有や核兵器の使用は認められるべき”と考えている。実際、安倍は官房副長官時代の2002年、早稲田大学で開かれた田原総一朗氏との対話のなかで「憲法上は原子爆弾だって問題ではないですからね、憲法上は。小型であればですね」と語っている(「サンデー毎日」02年6月2日号/毎日新聞出版)。また、2006年には「核兵器であっても、自衛のための必要最小限度にとどまれば、保有は必ずしも憲法の禁止するところではない」と答弁書に記すなど、もとより積極的な核武装論者なのである。
美智子皇后の誕生日文書では他にも〈心に懸かること〉として、自然災害や原発事故からの復興ともに、〈奨学金制度の将来、日本で育つ海外からの移住者の子どもたちのため必要とされる配慮〉をあげた。これは、在日コリアンの子どもたちなどに対する、政治状況を憂慮してのことだろう。