現実の安倍首相も、核兵器保有に前のめりだ。北朝鮮には核の放棄を迫りながら、核保有国であるアメリカとともに核兵器禁止条約には反対の姿勢を取りつづけ、国際社会の核廃絶の流れに完全に逆行した態度を取っている。
しかし、小説でもっとも気になる部分は、主人公の少年が旅の果てで目にした指令官の正体である。指令官は〈人間の形をしたもの〉にしか見えない状態で、鉄の服に覆われて吊されている。しかも異様なのは、両脚の付け根から指令官の3倍はある大きな何かが伸びている。その描写は、男性のペニスを思わせるものである。
なぜ、田中氏は安倍首相と男性のペニス──しかも勃起しないそれと重ね合わせたのか。前述した『すばる』で、田中氏はこう話している。
「それは彼の顔だけではなくて、日本とアメリカの関係性においても言えることです。アメリカがすごいマッチョな男で、日本がそれにくっついている娼婦だという人がいますが、私はそれは逆だと思っている。アメリカが高級娼婦、日本はちゃちな男で、高級娼婦が頑張っていろいろ刺激してくれても、ちっとも勃たない。なぜ勃たないかといえば、高級娼婦にもともとの力を抜かれているから。
そうしたイメージが今の国の指導者とどうしても結びついてしまう。勃とうとして、しゃかりきになればなるほど、限界が見えれば見えるほど、限界ぎりぎりまで向かっていかざるを得ないという……」
現在の状況は、このときの田中氏のイメージと似た状況になっていると言えるだろう。いま、日本はトランプ率いるアメリカからは軍事力の強化を急き立てられ、安倍首相はその通りに動いている。それはアメリカに隷属しているようにみえる。だが、安倍首相の北朝鮮に対する言動は、挑発を受けている当事国のアメリカ以上に強硬だ。本来ならば各国同様、平和的解決に向けてトランプを諫めなければならない立場であるにもかかわらず、安倍首相は「異次元の圧力をかける」などとひたすら焚きつけている。“勃起できないけどマッチョになりたいちゃちな男”たる日本、いや安倍首相が、いまどんどん限界に向かっている──田中氏の指摘は現況とたしかに当てはまる。
じつは田中氏は、以前にも「週刊新潮」(新潮社)に寄せた寄稿文のなかで、安倍首相を〈弱いのに強くなる必要に迫られているタカ、ひなどりの姿のまま大きくなったタカ〉と表現していた(詳しくは既報参照)。血筋というプレッシャーのなかで、本来の弱い自分を、自分自身が認められない。その安倍首相へのイメージは、今回の「勃起しないペニス」というものと相通じる。
そして、田中氏のイメージの鋭さに唸らされるのは、安倍首相をモデルにした指令官の台詞にある。『美しい国への旅』のなかで、その勃起しないペニスそのものである指令官は、機械の声で、こう語る。