こうした芸能界の在日差別も一時、解消されそうな気配があった。韓流がブームになって、ソニンのように最初から「在日」であることを公表し通名ではなく本名で活動する芸能人も現われたからだ。だが、それも近年の嫌韓ブームや右傾化、そして在特会の抗議活動によって、暗黒時代へと逆戻りしてしまった。
水原の場合、本名にもコリアンルーツを明確に示す要素はもともとなく、水原の所属事務所が「母親が韓国人」という水原の出自に対してどのような意識をもっていたかは定かではない。いずれにしても、水原がモデルデビューしたのはわずか13歳で、「水原希子」として活動するようになったのもまだ16歳のとき。芸名について本人の意向が入る余地などほとんどなかっただろう。
フィフィや山本一郎が悪質なのは、こうした在日差別の構造をおそらくは理解していながら、その差別構造や差別する側を批判するのではなく、ネトウヨたちの尻馬に乗り、そしてさらなる差別感情を誘発するように、差別を受けている水原のほうに「本名を名乗れ」と迫っていることだ。
しかも酷いのが、差別についてこれくらいの知識とリテラシーは当然もっているべきマスコミまでもが、このフィフィの差別発言を無批判に拡散したことだ。日刊スポーツが16日夜、このフィフィのあからさまな差別ツイートについて、「フィフィ、差別撲滅を訴えた水原希子にアドバイス」と題し、フィフィが水原に〈アドバイスとエールを送った〉などと肯定的に報じたのである。
記事には〈フィフィは同じく日本で活動する外国人タレントとしての立場から、「偏見がなくなって欲しいと願うなら、彼女の場合は分からないけど、例えば生まれ持った名前で活動する方が素敵だと思う。それを躊躇することこそ偏見って思われちゃうからね」と助言。「頑張って!」とエールを送った〉とある。躊躇させるような差別意識の残る社会や差別主義者ではなく、被差別者に本名やルーツを明かせと迫ることを「助言」「エール」などと報じるこの記事自体が、水原に対してのみならずマイノリティたちへの重大なレイシャルハラスメントであることは言うまでもない。
水原が叩かれるのは2016年の中国ファンに向けた謝罪動画が原因だなどと主張している者もいるが、これは問題のすり替えだ。当時本サイトが報じた通り、動画で水原が語ったのは、戦争と差別を憎み平和を希求するというメッセージであり、批判されるどころか称賛されるべきものだったし、そもそもこの謝罪動画事件以前から、水原はずっとヘイト攻撃にさらされてきた。
それでも水原は十代のころから一貫して「父親がアメリカ人で、母親が三代前から日本に住む在日韓国人、国籍はアメリカ」「アメリカ・テキサスで生まれ、1歳から神戸で育った」というルーツを自ら公言しており、隠すどころかむしろ積極的に語ってきた。