実は、こうした政治部の社会部に対する圧力は、今回の『クロ現+』の放送内容からも如実に伝わってきた。
たとえば、新文書の内容を報告するVTRを受けてのスタジオでは、社会部の大河内直人記者とともに政治部官邸キャップの原聖樹記者が出演。そこで原記者は「(国家戦略特区の手続きに)間違いが起きるはずがない」「規制を緩和したくない文科省」など、手書きのフリップを持ち込んでまで官邸の方針をそのまま垂れ流すように解説を行った。対して大河内記者は、原記者の解説を「表の議論」とし、今回発覚した新文書を「内閣府と文科省の水面下の交渉が記録された文書のひとつ」「公平性・透明性が保たれたかどうかは、こうした省庁間の交渉も含めて検証する必要がある」と“反論”。両記者は横並びで座りながら、真っ向から対立したのだった。
さらに同番組では、国家戦略特区諮問会議の民間議員で今回の獣医学部新設にもかかわった八田達夫氏の「どこを選ぶなんてことを贔屓するなんてことはない」「各省庁に対してリーダーシップを発揮できる制度」などという言い分まで放送。特区制度に疑問を投げかけた立命館大学の高橋伸彰教授の発言と“両論併記”するという忖度も見せた。
また、今回のNHKの報道に官邸は激怒しており、今後、官邸の意を受けた政治部、「忖度の塊」と評される報道局長がこれまで以上に圧力を強めるのは必定だろう。上田会長も「籾井氏よりはマシなだけ」で、「とてもじゃないが官邸に楯突くような人物ではない」というのが大方の見立てであり、事態はまったく楽観できる状況にはない。
ただ、それでも現場ではその官邸と政治部の圧力に抗おうという動きが広がっている。
たとえば、今回の『クロ現+』放送を受けて、20日に萩生田副長官が「不確かな情報を混在させてつくった個人メモ」と反論すると、21日にNHKは「行政文書であることは法的に疑いがない」という専門家による見解をニュースにするなど、再反撃に出た。これは最近のNHKではありえなかった姿勢だ。
社会部を中心に出てきたこうした動きは、官邸─政治部の力によって押し潰されてしまうのか。それとも、公共放送としてあるべき姿を取り戻し、“安倍チャンネル”という汚名を払拭できるのか。正念場にあるNHKの状況を注意深く見守る必要がある。
(編集部)
最終更新:2017.12.05 01:39