そういった仕事のひとつが『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』(講談社)だ。
この本はタイトル通り、日本国憲法が生まれた経緯や、その憲法の意義について子どもでも理解しやすい平易な言葉で書かれている。『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』は2006年に出版されたものだが、そのなかには、まさに2017年のいまだからこそ思い返されるべきこんな言葉がある。
〈このごろ「この憲法は古い」と言う人がふえてきました。そう主張する人は他方で、「明治の教育勅語はすばらしい」と言ったりしますから、なにがなんだかわからない。古いというなら、日本国憲法より、教育勅語のほうがよっぽど古いではありませんか。
いったい、もめごとがあっても武力でではなく話し合いで解決しようという考え方のどこが古いのでしょうか〉
前出「週刊プレイボーイ」のインタビューで彼は「僕らが少年の頃にどれだけ憲法に思いを託したか」と語っているが、『井上ひさしの子どもにつたえる日本国憲法』では、この憲法に書いてあることがそれまでの自分の人生観をひっくり返したと書かれている。
それまで学校では「兵士となって戦地へ行くのか、防衛戦士として本土で戦うのか、それはわからないが、とにかく二十歳前後というのが、きみたちの寿命だ」と先生から言い聞かされてきた。それが終戦を機に180度変わったのである。戦争のせいで若くして死ぬという可能性はなくなったのだ。
〈敗戦の翌年、日本国憲法が公布されたときです。「きみたちは長くは生きられまい」と悲しそうにしていた先生が、こんどはとても朗らかな口調で「これから先の生きていく目安が、すべてこの百と三つの条文に書いてあります」とおっしゃった。とりわけ、日本はもう二度と戦争で自分の言い分を通すことはしないという覚悟に、体がふるえてきました〉