しかし、山下裁判長の判断は予想の範疇だろう。なぜなら、これまで電力会社や政府が“国策”として目指す再稼働に都合の悪い裁判所や裁判官に対し、最高裁とそれを牛耳る安倍政権は、人事権を発動し、その決定をことごとく覆してきたからだ。
すでに本サイトでも指摘しているが、15年4月、高浜原発再稼働差し止めの仮処分を決定した福井地裁の樋口英明裁判長(当時)は、その判決を下したのち、名古屋家裁に“左遷”されてしまう。これは懲罰人事であり、今後原発訴訟に関わらせないための追放人事だった。そして、樋口裁判長の後任として福井地裁に赴任してきたのが林潤裁判長だった。林裁判長(当時)は同年12月に高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを覆し、事実上、再稼働を決定。さらに、林裁判長は大飯原発についても周辺住民らが求めていた再稼働差し止めの仮処分の申し立てを却下する決定をした。
林裁判長は1997年の最初の赴任地が東京地裁で、2年後に最高裁判所事務総局民事局に異動。その後も宮崎地裁勤務以外、東京・大阪・福岡と都市圏の高裁と地裁の裁判官を歴任している。この最高裁事務総局というのは、裁判所の管理、運営、人事を仕切る部署でエリート中のエリートが集まるところ。林裁判長は人事権を握る事務総局から目をかけられ、将来を約束された最高裁長官さえ狙えるようなエリートだったのだ。さらに、林裁判長と一緒に高浜原発再稼働を認めた左右陪席の2人の裁判官、中村修輔裁判官と山口敦士裁判官もまた最高裁判所事務局での勤務経験があるエリート裁判官だった。そんなエリート裁判官たちが高浜原発のある福井という地方地裁に赴任したことは、異例のこと。つまり、政府や電力会社に都合が悪い決定を下した樋口裁判官を左遷し、代わりに最高裁がお墨付き与えたエリート裁判官たちを原発再稼働容認のために送り込んだのだ。
それだけでなく、裁判所は電力会社や原子力産業とも直接癒着もしている。これまで数多くの電力会社と住民との訴訟において、電力会社に有利な決定を下した裁判官や司法関係者が原発企業に天下りするなど、原発利権にどっぷりと浸かっているからだ。
その典型的な例を「週刊金曜日」2011年6月3日号でジャーナリストの三宅勝久氏がレポートしている。記事によれば1992年、伊方原発と福島原発設置許可取り消しを求めた裁判で「国の設置許可に違法性はない」と電力会社側に沿った判決を下した味村治氏(故人)が、退官後の98年、原発メーカーでもある東芝の社外監査役に天下りしていたという。
味村氏は東京高検検事長や内閣法制局長官を歴任し、最高裁判事となった人物で、いわば司法のエリート中のエリート。しかも味村氏の「原発は安全」との味村判決が、その後の原発建設ラッシュを後押しする結果となった。原発企業に天下ったのは味村氏だけではない。同じく三宅氏のレポート(「週刊金曜日」2011年10月7日号)でも司法関係者の原発企業天下りが紹介されている。
・野崎幸雄(元名古屋高裁長官) 北海道電力社外監査役
・清水湛(元東京地検検事、広島高裁長官) 東芝社外取締役
・小杉丈夫(元大阪地裁判事補) 東芝社外取締役
・筧栄一(元東京高検検事長) 東芝社外監査役・取締役
・上田操(元大審院判事) 三菱電機監査役
・村山弘義(元東京高検検事長) 三菱電機社外監査役・取締役
・田代有嗣(元東京高検検事) 三菱電機社外監査役
・土肥孝治(元検事総長) 関西電力社外監査役