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論争勃発!『ラ・ラ・ランド』チャゼル監督はなぜいつもジャズファンから嫌われる? 前作では菊地成孔と町山智浩バトルも

 それは一般のジャズファンだけではなく関係者も同様で、たとえば、元ナタリーの編集者で現在はバークリー音楽大学に留学している唐木元氏はツイッターでこのように怒りをぶちまけていた。

〈ラ・ラ・ランド感想、前作で最大の短所だった陳腐なストーリーが、ミュージカルという形式を手に入れ美点に転化したこと(+5)。LAがよく撮れていること(+5)。よく撮れすぎていること(-1)。引き続きジャズのことが何一つわかっていないこと(-∞)。要は最後のさえ気にならなければ最高〉
〈まず「ジャズ本道とカクテルミュージック」という対立軸が古いし、第二に「新世紀ジャズとストレートアヘッド」という対立軸も古い(あと新世紀ジャズのサンプル曲がまったくなっていなかった)。さらにあれだけジャズジャズ言っといてあのワルツなんなんだよっていう〉

 また、ジャズミュージシャンの菊地成孔氏も、昨日放送された『菊地成孔の粋な夜電波』(TBSラジオ)で、具体的な批判ポイントには言及しなかったものの、「『ラ・ラ・ランド』の悪口を言うと止まらなくなっちゃうんで」と、何かしら思うところがあるということを示唆していた。

 ただ、実は、こういった展開は以前から予想されていた。「ミュージック・マガジン」(株式会社ミュージック・マガジン)2017年3月号の映画評のなかで長谷川町蔵氏はこのように書き綴っていたのだ。

〈主人公のジャズ観がモード以前で止まっているばかりか、ロバート・グラスパーらが牽引するトレンド(それを体現するミュージシャンを演じているのがジョン・レジェンド!)をディスるシーンもあるので、日本では前作同様ジャズ・ファンからまたバッシングを受けそうな気がしないでもないけど〉

 ロバート・グラスパーとは、ヒップホップからの影響をジャズに落とし込み、ジャズに新たな潮流を生み出した人物。12年に発売されグラミー賞で最優秀R&Bアルバム賞を受賞した『ブラック・レディオ』を端緒とし、彼のようにジャズと他ジャンルの音楽を組み合わせて表現の幅を拡張させるジャズミュージシャンが次々とブレイクした。ホセ・ジェイムズ、マリア・シュナイダー、マーク・ジュリアナ、クリス・デイヴ、リチャード・スペイヴンなどのミュージシャンがつくりだす新たな感覚のジャズは「今ジャズ」とも呼ばれ、音楽シーンのなかで重要な潮流となった。昨年発表されたデヴィッド・ボウイの遺作『ブラックスター』は、そういった「今ジャズ」系のミュージシャンを招いてつくられた作品である。

 こういった背景があるため、いまの時代に生まれた新しいジャズをコケにするような『ラ・ラ・ランド』の描写に「モヤッ」とした気持ちを抱いた観客が現れたのである。ただ、なかには、それはそれで仕方がないと見る人もいる。前述したような新しい潮流のジャズミュージシャンを特集するムック本シリーズ『Jazz The New Chapter』(シンコーミュージック)の監修者であるジャズ評論家の柳樂光隆氏は、映画の描写に疑問を呈している人々に反応してこのようにツイートしていた。

〈基本的に新しいジャズの方がいいって言うのはすごくハードル高いんですよ。だって、スイングジャーナルのバックナンバーとか見ると、ビバップが出てきたときはスイング好きな人が怒ってたし、ソウルっぽいのが出てきたときはビバップ/ハードバップの人が怒ってたし。フュージョンもそうですよね〉

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