わずか140人が暮らす静かな集落だった高江地区。その区長を務める女性へのインタビューでは、ヘリの轟音に言葉がかき消される。「今でもこういう状況のところへ、さらに地区を取り巻くように6つのヘリパッドが建設されるという話ですから、賛成という人は高江にはいない」と彼女は言う。
取材陣はさらに、「どこつかんどんじゃボケ、土人が」と大阪府警の機動隊員に暴言を浴びせられた作家・目取真俊氏にも当時の状況を詳しく聞いている。あまりにも差別的な言葉に、目取真氏は何を言われたのか、咄嗟に理解できなかったという。
「(土人という言葉が)僕自身は『老人』に聞こえた。そんなに年寄りでもないのに、なんで?と。でも後から考えたら決して珍しいことじゃない。沖縄に対する差別の中で、南の島の遅れた地域だとずっと言われてきたわけですよ。関西に限らずヤマトではね。琉球に対してね」
こうした人びとの声を聞くだけでも、「反対派に地元の人間はいない」という風説が完全に事実に反することは十分明らかなわけだが、では、デマを流す側はどう答えるのか。
取材陣はまず、「土人」発言を擁護するデモを呼びかけ、大阪で「機動隊員の人権を偏向報道から守る」と称して実際にデモを繰り広げた福岡県行橋市議の小坪慎也氏に見解を質している。現地で反対運動を取材すれば県民が大多数だが?という質問に対し、小坪氏は「多数かどうかは問題じゃなく、組織の意思決定が誰によって為されているかが問題だ」と、詭弁で論点をずらす。自分が「反対派に県民はほとんどいない」と繰り返し主張してきたにもかかわらずである。そして、沖縄の知人から聞いた話として、「本土から来た元過激派のせいで基地反対運動が変質してしまっている」という持論を言い張るばかりだった。
次に、読売テレビの関西ローカルの番組『あさパラ!』で同様の主張をした嵩原安三郎弁護士である。彼は沖縄出身ということで、番組中では「現地の事情に詳しい」とされ、「土人」発言直後の放送でこんな“解説”をしている。
「(反対派は)住民じゃない。もちろん沖縄の人間も少しは混じってますけど、実際あの反対派と呼ばれる人たちは、地元の住民ともトラブルを起こしてますから。対立してますから」
「あの現場で実際何が起きているのか見てください。今の報道の仕方はかえって沖縄人を傷つけています」
MBS取材陣は、これらの発言の根拠を問うべく取材を申し込んでいる。嵩原氏もいったんは応じ、実際にインタビューが行われたというが、後になって「番組が偏っている」という理由で映像の使用を拒否。そのため今回のドキュメンタリーでは匿名になったが、番組によれば、こんな趣旨のことを述べていたという。