■産経の“いちゃもん”の背景にある安倍政権の“お墨付き”
あらためて、今回の産経の記事をふりかえってみると、そこで繰り広げられていたのはこういうやり口だ。
・本題ですらない一枚の写真を大々的に取り上げ、番組全体がまちがいだったかのような論点スリカエ。
・なんら番組と関係ない毎日新聞の記述と番組をわざと混同し、毎日新聞の記事の問題をあたかも番組の問題であるかのように語る印象操作。
・番組でも具体的に紹介された「自衛発砲説」を“触れていない”などという、見ればすぐにわかる完全な嘘。
・なんら客観的証拠も示さず、番組があたかも「中国側のプロパガンダ」に乗せられて作られたかのように批判する、陰謀論。
これが、仮にも全国紙のすることか、まるでネトウヨまとめサイトの手口ではないか、と呆れざるをえないが、しかし、今回の産経による日テレへの言いがかりを、「こいつらアホか?」と笑ってすませてはいられない。
こうした“南京事件はなかった”論はかねてよりずっと存在してきたが、安倍政権になってから、そのトンデモ歴史修正主義が政府の動きと完全に一体化しているからだ。
実際、『南京事件 兵士たちの遺言』が初回放送された当時といえば、ちょうど中国による「南京大虐殺」のユネスコ世界記憶遺産申請(10月10日に登録)が行われた直後だった。
当然のように、この「南京大虐殺」登録に極右陣営は猛反発。当時自民党の元文部科学副大臣だった原田義昭衆院議員からは「南京大虐殺や慰安婦の存在自体を、我が国はいまや否定しようとしている時にもかかわらず、(中国が)申請しようとするのは承服できない」などという発言が飛び出し、外務省も「極めて遺憾」「ユネスコの事業が政治利用されることがないよう、制度改革を求めていく」との報道官談話を発表した。
そして実際に、今年10月13日、外務省は自民党の会合で、日本政府がユネスコに対する今年の分担金約44億円を拠出していないことを明らかにした。あまりにも露骨な圧力としか言いようがない。
もちろんこうした安倍政権の動きは、国民の世論にも多大なる影響を与えている。極右界隈の歴史修正主義に政府の“お墨付き”を与えるにとどまらず、昨今ネットを中心に跋扈している、「南京大虐殺なんてなかった」「慰安婦は存在しなかった」という日本の戦争犯罪を否定する論調をさらに加速させていくだろう。
この流れを食い止めるにも、それこそ『南京事件 兵士たちの遺言』が貫き通したように、調査報道によって、客観的な事実をつきつけなければならないし、産経の記事のようなあからさまな言いがかりについてはきっちり反論していく必要がある。
(編集部)
最終更新:2017.11.12 02:19