一方、日本テレビは先月26日、同局ホームページで“記事内容は、番組が放送した事実と大きく異なり、客観性を著しく欠く恣意的なもの”という趣旨の文書を掲載し、産経記事の指摘や主張に対して詳細に反論。産経新聞社に厳重に抗議した。
すると、11月6日、今度は産経が再反論する記事を掲載。産経と日本テレビの間で激しい応酬が繰り広げられている。
しかし、今回、改めて『南京事件 兵士たちの遺言』を見直し、産経の記事を検証してみて、口があんぐりとなった。産経の記事があまりにデタラメだったからだ。枝葉末節の間違いを針小棒大に騒ぎ立てて全体を否定してかかるのは歴史修正主義者の得意技だが、今回の産経の記事はそれですらない、嘘とデマゴギーだらけの言いがかりとしか思えないシロモノだった。
■他社記事の問題とスリ替え“捏造番組”とする卑劣手口
その典型が、産経新聞が見出しで「裏付けなし」と断じた「虐殺写真」だ。実は、最初、見出しだけを読んだときはこの「虐殺写真」がなんのことかわからなかった。番組のメインは元兵士の日記と証言の検証で、虐殺の証拠写真があるというようなくだりはまったくなかったからだ。
記事を読んで、ようやく番組のプロローグとエンディングで流された写真であることがわかったのだが、頭の中の「?」はさらに増すばかりだ。
写真はたしかに大勢の人間が防寒着姿で倒れている様子を写したものだが、番組はこれを「虐殺の証拠写真」として出したわけではなく、検証の材料のひとつとして紹介しただけ。しかも、番組はこの写真が日記の記述とは違う場所であることを明示している。つまり、信用性について判断を留保しているのだ。
ところが、産経は、この写真が「昭和63年12月12日、毎日新聞(夕刊、大阪版)がすでに掲載していた」と鬼の首をとったようにあげつらい、毎日新聞の記事が「被写体が中国側の記録に残されているような同士打ちや溺死、戦死した中国兵である可能性には一切触れず、『大虐殺』の写真と報道した」と糾弾するのだ。
いったい産経は何を言っているのだろう。番組の写真は、毎日新聞に掲載されたものとは別ルートで入手したもののようだが、仮に毎日の写真と同じだったとしてなんの問題があるのか。
「大虐殺の写真」と報道したのは毎日新聞であって、日本テレビの『南京事件 兵士たちの遺言』ではない。実際、同番組はこの写真について、ひと言も「虐殺写真」などと紹介していない。それどころか、写っているのが「中国人」とも言っていないし、「死体」とすら断定していない。「防寒着姿で倒れた多くの人々」と、一切の主観や解釈、評価は排除し、見えるままをナレーションしているだけだ。