“アメリカではよくあること”とはすり替えもいいところだが、実のところ、これもかなりおかしな話だ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのピーター・ランダース東京支局長は、日経新聞の取材に対し“米議会のそれと安倍首相のそれとは性質が異なる”と疑義を呈している。
「米議会のスタンディングオベーションは安倍晋三首相の所信表明演説のケースと性質が違う。米議会では、演説する人に賛同を示すために皆が立って拍手するのに対して、安倍首相の場合は、その場にいない自衛隊員や海上保安庁の職員に敬意を表すために拍手を呼びかけた。私の記憶では、そのような呼びかけは米国でも珍しいと思う」(日経新聞10月10日付)
つまり、安倍政権が仕掛けた、そこにはいない自衛隊などを礼賛するスタンディングオベーションは、米議会ではほとんどありえないというのだ。
ようするに、安倍首相がいう「自発的」というのはまったくのウソで、例のグロテスクなスタンディングオベーションは自然発生でもなんでもなく、台本からオーディエンスの仕込みまで、明確に計画したうえでの行動。しかも“アメリカではよくあること”という妙に自慢げな言い分も、実はありえないことだったのである。側近に仕掛けさせておいて、問題視されるやすぐさま逆ギレ。これが一国の首相がやることなのか。呆れてものも言えない。
だが、わたしたちが忘れてはならないのは、このグロテスクなスタンディングオベーションのそもそもの目的だ。これは安倍首相の「政治力」を党内外に見せびらかすパフォーマンスであったのと同時に、今後、新安保法下で自衛隊に“命を掛けさせる”事態が発生することを想定した、地ならしの意味がある。まるで戦中、徴兵制や国民徴用令と同時に、政府の意に沿わない人間に対する「非国民」のレッテル貼りが横行した状況を、約70年が経過したいま、再現しようとしているかのようだ。
国のために命を投げ出すことを礼賛する安倍政権は、この国を着実に戦中体制に仕立て上げようとしている。そのことを、わたしたちはよく自覚するべきだ。
(編集部)
最終更新:2017.11.24 07:17