現場は、なぜ自分たちが海外で武力行使をせねばならないのかと、あきらかに戸惑いを見せている。だが、新安保法に基づく任務は事実上の“強制”。人を殺せと命じられれば、殺さざるを得ないのだ。実際、この現役自衛官は、安保法の成立後、海外派遣に関するこんなアンケートに回答させられたという。
「3択しかないんですね。“熱望する”のか“命令とあらば行く”のか、“行かない”のか。3番の“行かない”にマルをつけたら、当然後から上司のほうに呼ばれて『何で行けないんだ』と(言われた)。結局、延々と問い詰められたから、じゃあ2番の“命令とあらば行く”でいいです、と」
上司からパワハラを受けて、海外派兵を拒否することができない。これが、自衛隊という組織のリアルなのだ。さらにこの現役自衛官は、“選択肢のないアンケート”がもっている本当の意味を、このように語っている。
「たぶん何かあったときには、家族にはたぶんこのアンケートを見せるんだろうな、と思いながら。『いや、本人は希望していました』と。何かあったときの逃げじゃないけど、それが見えて、すごい嫌です。『家族がいるから俺は行けません』と頑なに断った先輩がいたんですけど、そうしたらその先輩が僻地のほうに転属とか、単身赴任で飛ばされるとか、よくわらかないような人事がある」
ようするにこのアンケートは、はなから個々の自衛隊員の任務や配属の希望を聞くためのものではなく、紛争地帯で“戦死”した場合のための“言質”を取るためだったのではないのか、そう現役自衛官はいうのだ。そして、圧力に屈しない隊員には露骨な報復人事を下し、他の自衛隊員に対する“見せしめ”にする。これは、おそらく『報ステ』の取材に匿名で答えた現役自衛隊の周辺に限った話ではないだろう。
今年7月には、現職の陸上自衛官が新安保法による集団的自衛権の行使は違憲だとして、国を相手取り東京地検に提訴した。原告は「防衛出動」の命令に従う義務がないことの確認を求め、自衛隊の入隊時に同意していない命令に従う義務はないと訴えているが、対する国は、原告の訴えは不適法であり、却下を求めている。安倍政権は、憲法違反の法律が自衛官の生命を危険にさらそうとも、冷酷なまでに“命令に従え”と言い続けるのだ。
しかし、新安保法のもとでの自衛隊の任務、たとえば「駆けつけ警護」がもたらす“戦死”リスクは、一人や二人といった人数で済みそうにないのが現実だ。専門家もその危険性を指摘しており、たとえば元陸上自衛隊レンジャー隊員の井筒高雄氏は「週刊朝日」(朝日新聞出版)15年8月28日号でこのように警鐘を鳴らしている。