2人は、福島県が発表した「第20回県民健康調査」をもとに福島の甲状腺がんの発生率を統計学的に解析、その結果を今年1月に発売された『福島原発事故と小児甲状腺がん』(本の泉社)で公表した。その結果“95%の信頼性をもって”上記の結論が導き出されたのだ。
宗川氏らが着目したのは、事故後3年間に行われた「先行検査」だ。これは事故当時0歳から18歳だった福島の子どもたち約37万人を対象にした、いわゆる“一巡目”の検査だが、この検査の位置づけはあくまで「事故前の甲状腺の状態を把握するため」に行われたものだった。
それは「チェルノブイリ事故では3年間はがんは発生しなかったというデータに基づいています。先行検査は甲状腺がんの発生に対して原発事故の影響がなかったと仮定した上で行われた調査」だったからだ。
そして、比較したのは事故から3年後に行われた二巡目以降の「本格検査」だった。
「先行検査と本格検査で甲状腺がんの発生率を比べて、両者が等しければ原発事故の影響はなかったことになります。しかしもし、本格検査の方が先行検査より発生率が高くなれば、がんの発生に原発事故が影響したことになります」
その方法は、まず先行検査から陽性者の比率を計算し、それを本格検査と比較するものだ。その結果は10万人あたりの発生率が先行検査で90.2人、そして本格検査では162.6人と実に1.8倍の結果が出ている。
これに加え、がん発症の頻度や陽性者全員が二次検査を受けていないなどの誤差を統計学的に計算した結果、その比率は11.7対35.4、つまり3.03倍になり、子どもたちの甲状腺がんの67%以上は原発事故によるものと推定されるのだ。
そのため113人の患者が発見された15年6月の段階で、それを大きく上回る326〜464人の患者が推定される。
それだけでない。本書ではさらに興味深い調査結果も示される。それが、がん発生の男女比だ。
「甲状腺がんはもともと女性に多い病気です。国立がん研究センターの2010年のデータによると、全国罹患率推計値(人口10万対)は、15歳から19歳で男子0.4:女子1.9(1:4.75)、40歳〜44歳で男性4.9:17.9(1:3.65)、60歳〜64歳で男性12.4:女性26.3(1:2.12)でした。このように自然発生の甲状腺がんは、年齢とともに男女比が変化しますが、特に若年では女子に大変多い病気です」