では、今回の『バイキング』のケースはどうなったのか。冒頭に触れたように、番組では、金の差別発言から少し経って、榎並アナが「先ほど、VTRをご覧いただく前のスタジオで、出演者の方から不適切な発言、表現がありました」とお詫びがあった。
しかし、これでは、誰の何という表現が「不適切」であったのか不明だ。フジはこの程度のお詫びですませるつもりなのかと思っていたら、番組の最後の最後になって、榎並アナからこんな二度目の謝罪があった。
「そして、ここでお詫びと訂正がございます。本日の放送のなかで、AD、アシスタントディレクターの業務の大変さを表すうえで、『士農工商牛馬AD』という表現がございました。これは、被差別部落の存在を前提とした差別を助長させる表現でございました。お詫びするとともに、この発言を取り消させていただきます。この度は大変申し訳ありませんでした」
取材してみると、これは番組中に抗議があったわけではなく、局の上層部から指示を受けた結果らしい。
「番組は最初のお詫びだけですませようとしていたんですが、発言を知った取締役クラスが慌てて、説明するよう現場に命じたらしい。うちの局は人権活動家を招いて差別発言を行ったときの対応について研修を行っており、そのときのアドバイスが生きたということようです」(番組関係者)
しかし、これだけで本当に十分な対応といえるのか。たしかに、番組側は謝罪したが、発言者である当の金美齢は番組の終わりまで、一度も謝罪することはなかった。しかも、フジ側の釈明は「ADのディレクターの業務の大変さを表すうえで」の表現というもので、差別発言とは認めなかった。金は明らかに侮蔑的な序列付けのジェスチャーをしながらADを被差別部落に喩えていたにもかかわらず、だ。
そういう意味では、今回のケースは、明らかに金美齢自身が差別発言について釈明するべきだ。しかし、「局としては、番組内での二度の謝罪で十分と考えていて、これ以上の対応をするつもりはなさそう」(フジテレビ関係者)だという。これはやはり、安倍首相と長きにわたって深い親交があり、「安倍晋三の婆や」を自称するこの極右評論家に遠慮して、かばっているということなのだろうか。