ただ、「洗脳」が解けたからといって話はそれで終わりではない。いったん市場に出回ったAV を回収することはできないし、それどころか、撮影された素材は「総集編」といったかたちで何度も商品化されていくことになる。香西氏は同誌でこのように語っている。
「マークスインベストメントに所属していた時代に撮られた私の三十余の作品は、知らないうちに二次利用、三次利用され、出演作品は数百にも膨れ上がっています。ネット配信が当たり前の時代、その残骸も含めて、AV女優の履歴は、私の意志と関係なく世の中を漂い続ける。もう二度ともとの人生に戻ることはできないのです」
ネットでのダウンロード購入が一般的になった今では、10年〜20年前の過去のアーカイブにもクリックひとつで簡単にアクセスすることが可能になった。これまでであれば自然に市場から消えていたものが、半永久的に残り続けることになる。強要により一度でも出演させられてしまったら、その後の人生をAV界に足を踏み入れてしまった過去がバレないかどうか怯えながら過ごすことになり、たとえバレなかったとしても、それが原因で就職や結婚などに二の足を踏んでしまったりと、残りの人生に大きな影響をおよぼすことも少なからずあるだろう。ネット配信時代となった現在では、これまで以上に引退後のAV女優をめぐる環境は厳しさを増しているともいえる。
しかし、これまであげてきたような香西氏のような告発や、NGO団体ヒューマンライツ・ナウによるAV出演強要に関する報告書がある一方、AV業界側からはそういった事例は一部の悪徳業者が行っていることで、健全化が進んだ現在ではそのようなメーカーやプロダクションは少ないとの反論もなされている。それもまた一面の事実ではあるだろう。
また、現在の「出演強要問題」の盛り上がりに乗じて、政府や捜査当局に間には、この問題に介入してAV業界潰し、もしくは自分たちの利権につながるような業界監視機関立ち上げという意図も見え隠れしている。
そんな状況を鑑み、元AV女優で現在は作家の川奈まり子氏は、今月11日、プロダクションやメーカーも巻き込んだ、出演者のための業界内部の団体「表現者ネットワーク(AVAN)」を立ち上げた。この団体では、出演強要などの問題はもちろん、引退後の女優のセカンドキャリア構築サポートなどの活動も行っていく予定であるという。
今後もこのAV出演強要問題に関しては議論が続けられ、さらなる実態の解明も進んでいくだろう。今後も状況を注視していきたい。
(田中 教)
最終更新:2016.07.16 11:40