ようするに、BT社、つまり電通の子会社のコンサルタントであるハン氏を招致委員会に推薦したのも、やはり電通だったのである。
そして、ガーディアンによれば、ハン氏は、国際陸連前会長のラミン・ディアク氏(セネガル出身)の息子であるパパマッサタ・ディアク氏の親友だという。ディアク親子は五輪開催地の選考及び投票に強い影響力をもっており、国際オリンピック委員会(IOC)委員を兼任していたラミン氏は「アフリカ票」の取りまとめ役。つまり、招致委員会→BT社のハン氏(電通の紹介)→パパマッサタ氏→ラミン氏と金が渡り、開催地票の操作につながったと見られているのである。
竹田恒和会長は国会で、BT社への2億3000万円の支払いを「票獲得に欠かせなかった」とする一方、ディアク親子と関係が深いこと、ペーパーカンパニーであることは「知らなかった」という。白々しいにもほどがあるが、百歩譲って招致委員会がハン氏とディアク親子の関係を認識していなかったにせよ、招致委側にハン氏を紹介した電通がこの事実を熟知していたことを疑う余地はないだろう。
ところが、日本の大マスコミは、この五輪招致「裏金」疑惑と電通のただならぬ関係を、ほとんど詳細に報じようとしないのだ。事実、ガーディアンが11日に「裏金」疑惑を報じた際も、そこにはしっかりと電通の関与が疑われると書かれていたが、当初、日本のテレビも新聞も、電通の名前を完全にネグっていた。
だが、電通の関与を強く疑わせるのは、ハン氏が電通の子会社のコンサルタントであったことだけではない。実は、今話題になっているガーディアンの記事が出る約3カ月前、すでに、国内メディアがこの五輪招致「裏金」疑惑と電通の関与を報じ、さらに、“電通側の窓口”となった日本人の名前を名指ししていたのだ。
それが、月刊誌「FACTA」3月号(2月20日発売)のスクープ記事「東京五輪招致で電通『買収』疑惑」である。署名はガーディアンの記事と同じ、オーウェン・ギブソン記者。「FACTA」とガーディアンは協力してこの疑惑を取材していた。
そして、「FACTA」が実名で報じた“電通側の窓口”こそ、大会組織委員会の理事である高橋治之氏(株式会社コモンズ会長)だ。高橋氏は電通の元専務で、国際サッカー連盟(FIFA)との交渉役を務めて数々の大イベントを日本側から仕切ってきた“豪腕”。FIFAのゼップ・ブラッター会長とも長年親交があることで知られる。