ゴールドマン監督の痴女系作品には前述の三代目葵マリーも出演しているのだが、彼の証言からも痴女ものAVを撮るにあたって「どんな態度でどんな言葉を言えばいいのか」を重要視していたことが分かる。また、それにあたって参考となるひな形となったのは、またしても「乱コーポレーション」を源流とする風俗の女性たちのプレイであった。
こうして確立された淫語を重視する痴女像は後進の監督たちにも受け継がれていく。痴女もので高い評価を受ける二村ヒトシ監督も、その淫語の重要性を認識していたひとり。その一例として安田氏は、2000年に刊行されたムック本に掲載された二村監督の撮影現場レポートにあるこんな一文を引いている。
〈二村監督は非常にセリフにこだわりを持っており、脚本も本人が書いている。今回それが十分に発揮され、美人の単体女優が強烈な淫語を口にする展開に、取材しつつ私も興奮を覚えた〉(『いやらしい2号 第2巻』/データハウス)
こうした過程を経て、現在では、単体のどんなアイドル系AV女優であろうと必ず企画に組み込まれるほど定番化した「痴女」ジャンルだが、本稿冒頭の上原亜衣のエピソードからも分かる通り、これを自然に演じるのには相当なスキルを要する。安田氏は前掲書でこのように綴っている。
〈痴女プレイの撮影では、淫語は監督から「こういう風に言って下さい」などと指示があることが多いが、それを淀みなく口にするのは難しい。さらに単に暗記していればいいわけではなく、状況によって的確な淫語を話すには、頭の回転が速いことが要求される。そして淫語の中身は女優におまかせの場合も珍しくなく、ボキャブラリーが豊富でなければ、痴女はこなせない。
痴女を演じるには才能が必要なのだ。痴女役に挑戦したものの、うまくできずに現場で泣いてしまったという女優の話もよく聞く。筆者がインタビューしたある女優は「痴女をやるくらいなら、ハードレイプやSMの方がずっと楽」と言っていた〉
前述したように、「痴女」というジャンルを生み出したのは、池袋にある性感マッサージ店の女性たちだったわけだが、実はいま、再び女性によって「痴女」というジャンルが刷新されようとしている。その旗手がSODクリエイトの社員監督である山本わかめだ。彼女の監督した『SOD女性監督・山本わかめ式「射精コントロール」勃起した男子は“射精の快楽”を味わうためなら、女子の言いなりになってしまうのか?』では、その長いタイトルが表している通り、男性を内面から侮辱するような言葉選びであったりと、新たな「淫語」の可能性を追求する動きを見せ、賛否両論の議論を巻き起こしている。女性によって生み出された「痴女の言葉学」は、今後これまた女性によって新たな可能性が探られていくのかもしれない。
(田中 教)
最終更新:2018.10.18 03:46