だが、安倍首相にとってはそんなことハナからどうでもいいようなのだ。そもそもなぜ、この櫻井氏なる御仁が「日銀トップ9」に選ばれたのか。そこには、官邸の強い思惑があったという。
日銀の金融政策が9人の合議で決定するのは、政策の多様性が求められているからだ。総裁の独裁や暴走によって国民経済が破壊されることを防ぐため、政策委員会は常に絶妙なバランスで成り立っているはずだった。黒田総裁が今年2月の金融政策決定会合でマイナス金利を導入した際、9人のメンバーのうち4人が反対だった。結果は同じでも、「4人が反対」という事実が国民に伝わり、記録に残ることが重要なのだ。
実はこの時、反対に回った審議委員の一人、白井さゆり氏が3月末で任期を迎えた。なんのことはない。エコノミストとしてまったく無名の櫻井氏が反対派白井氏の後任に選ばれたのは、任命権を持つ安倍内閣が、安倍─黒田ラインの傀儡として送り込んだからなのだ。自らの経済政策・アベノミクスの失敗を糊塗するため、中央銀行の人事すら「私物化」しているということなのだ。
「週刊ポスト」の報道に対して、菅義偉官房長官は9日午前の記者会見で「日銀のウェブサイト上の表現の正確性の事柄であり、日銀が適切に対応する」などと言い訳にならない言い訳をした。
そもそも安倍内閣は首相の安倍自身が、成蹊大学卒業後、南カリフォルニア大学の外国人向け語学コースに一時的に通っただけなのに、「南カリフォルニア大学政治学科に2年間留学」とウソの経歴を語って恬として恥じない人物だ。「公職に就く人物は経歴詐称をしてはならない」などという倫理感はハナから持ち合わせていないのだろう。
しかし、問題なのは、新聞やテレビの姿勢だ。官邸にこう開き直られた途端、追及の動きを一気に鈍らせてしまった。テレビは昼のワイドショーも夕方のニュース番組も一切、この「週刊ポスト」の報道に触れていない。ショーンK氏や小保方氏のことをあれだけ叩きまくった勇ましい姿勢はどこへいってしまったのか。
「新聞・テレビがこの件を大きく報じないのは、官邸を恐れて、というのもあるでしょうが、日銀ににらまれたら、金融政策にかんする情報をもらえなくなると心配しているから。各社とも経済部が待ったをかけているんじゃないでしょうか」(全国紙政治部記者)
結局、日本のマスコミが叩けるのは、ショーンK氏くらいということらしい。
(野尻民夫)
最終更新:2016.06.21 07:26