じつはこの、「東日本大震災時にガソリンが足りなかった」という話題を、極右の改憲カルトたちは何かと口にする。
たとえば、日本会議が販売、勉強会などで配布している『女子の集まる憲法おしゃべりカフェ』(明成社)なる冊子がある。この冊子は「安保法制は合憲」と言い張った数少ない憲法学者のひとりである百地章・日本大学教授が監修しているのだが、その内容は、喫茶店を舞台に「自衛隊オタク」のマスターと女性の常連客が“いまの日本はおかしい!憲法改正しなきゃ!”と意気投合していくという、典型的なプロパガンダ本だ。
この薄気味悪い冊子のなかで、最初に出てくるのが、東日本大震災時のガソリン問題なのだ。
〈(サチ子)昨日の地震、いつもより大きかったわよね。
(桃子)うん。驚いたわ。最近、地震が起こっていなかったから、ちょっと焦っちゃった。(中略)
(マスター)ねぇ…日本は憲法に「非常時のルール」が定められていない国ですし、首都直下地震のような地震が起きたら、大変なことになるでしょうね…。
(サチ子・桃子)…え??〉
もう展開は読めていると思うが、このあとマスターは〈東日本大震災の時、日本人の秩序正しい姿が世界で賞賛される一方で、今の法制度、つまり憲法の様々な問題が浮き彫りになりました〉と言い、例の話をはじめるのだ。
〈たとえば、東日本大震災の時、被災地ではガソリンなど緊急車両でさえガソリンが足りなくなりました。一方、被災地以外ではガソリンが必要な所に行きわたらず、本来なら救急車で運ばれ助かっていたかもしれない命も多く亡くなりました。そのような直接、地震や津波などで亡くなったわけではない「震災関連死」は、今回の震災で千人以上と言われています〉
そして、〈非常時のルール〉である緊急事態条項があればこんなことは起こらない、とマスターは常連客を煽り、〈非常事態にどうするのか、国がきちんと決めないといけないわね〉と納得するのである。
しかし、“ガソリン不足で助かる命も助からなかった”というこの話は、完全なでっち上げ、“虚偽の事実”だ。
それを暴いたのは、4月30日に放送された『報道特集』(TBS)だ。同番組では、岩手・宮城・福島の被災3県にある全36の消防本部に取材。すると、「燃料不足によって救急搬送できなかったという回答は一件もなかった」というのだ。