だが、こんなことで玉川氏は黙らない。玉川氏が“規制委のリスク想定は万全ではない”と指摘すると、石原氏は「内陸型地震で(マグニチュード)8はこない! これは科学として(実証されている)」と応戦。すると司会の羽鳥キャスターが「(M8の地震が)ないとは言い切れないわけですよね?」とゲストの橋本学・京都大学防災研究所教授に話を振り、橋本氏も「当然そうですね」と回答。今度は“原発事故よりも火山の噴火のほうが問題”と話のすり替えをしようとする石原氏に、玉川氏は「(地震が)来ないっていう前提で(安全基準を想定)やるのと、来るっていう前提でやるのでは話が全然違う」「福島の津波だってそんな大きいの来ないよって言ってて、あの状態ですよ!」と怒りを露わにした。
石原氏といえば、福島原発事故以前に電事連の原発PR広告に頻繁に登場していた“御用タレント”であり、いまだ原発安全神話を振りまいている“無反省”な人物だが、こうした相手にきちんと反論し、怒りさえ見せるというのは、ジャーナリストとして真っ当な証拠だ。しかも、玉川氏はその後、21日の自身のコーナー「そもそも総研」で原発問題を特集。あらためて、GPS調査によってもっとも懸念される地域が四国北部であることや、その長い断層が動けば、地震が起きた場合はマグニチュード8クラス、伊方原発近辺では震度7クラスの揺れが起こるという専門家の意見を紹介した。
くわえて、このコーナーでは、伊方原発は中央構造線が走る断層の沖合わずか5キロの場所にあること、今回の熊本大地震で垂直加速度1399ガルが記録されたことに対して、伊方原発は最大でも485ガルでしか設計されていないことなどをリポート。さらに原発の稼働中に事故が起こるのと停止中に起こるのとでは、被害がケタ違いだという点も踏まえ、「熊本地震のメカニズムがわかるまでは、臆病なくらいの対応がふさわしいのではないか」とまとめた。
福島の原発事故を経験したいま、こうした報道が行われるのは、いたって当然のことだ。むしろ現在は、次にどんな大地震が起こるのかまったくわからない、“想定外”の危機に備えなくてはならない状態。玉川氏の言うように「臆病なくらいの対応」を国や原子力規制委に求めるのが報道の責務でもあるはずだ。だが、少なくともそうした警鐘を鳴らした番組は、この『モーニングショー』を除くと、『サンデーモーニング』『報道特集』(ともにTBS)くらいだ。
それだけではない。四国電力は伊方原発3号機について今年7月の再稼働を目指しており、今月20日、市民団体が愛媛県庁に再稼働同意を撤回するよう申し入れを行ったが、このニュースを報じたのもTBSのみだった。
また、チェルノブイリ原発事故から30年目となった一昨日、『NEWS23』(TBS)では、キャスターの星浩氏が“予測のできない地震が起こるこの国で、原発再稼働を行うのは問題がある”と話した。今回の地震では現地レポートでも頼りない印象しか残せなかった星キャスターだが、はっきりと原発の問題を口にしたことは評価できるだろう。
しかし、これまで述べてきたように、ほとんどの報道・情報番組は、原発をタブー化し、政府や原子力規制委の対応への批判や安全性の議論はおろか、問題が指摘されている場所に原発があるという事実にさえ目をそむける。これでは籾井会長と同じ穴の狢、報道の役割など捨てている状態だ。
地震のリスクを叫ぶ一方で、原発問題は放り出し、オリンピックのエンブレムやベッキーの手紙の話題で盛り上がる。──昨日、石川県志賀原発1号機の原子炉建屋直下に活断層があるという有識者会合の報告を原子力規制委が受理、1号機の廃炉の可能性が高まったが、こうした重要なニュースさえ、『NHKニュース7』をはじめとして伝えない番組も多かった。
この国のテレビの報道は、もう福島の事故のことなど忘れてしまった、いや、とうに「なかったこと」にしているのだろう。そう思わざるを得ない。
(水井多賀子)
最終更新:2016.04.28 07:21