しかし、その小泉氏もエネルギーについては、そういったスタンスをとらなかった。それどころか、首相在任時は原発の危険性を指摘する声を否定し、その安全性にお墨付きを与えている。たとえば、2004年のスマトラ沖大地震・インド洋大津波を受け、翌05年1月の参院本会議で民主党の江田五月議員から原発の津波対策について問われた小泉首相(当時)は、こんな答弁をしている
「国内の原子力発電施設について、地震や津波が発生した際に放射能漏れなどの事故を起こすことがないよう設備の耐震性の強化を図っているほか、津波により海水が引いた場合にも冷却水を提供できるような措置を講じております」
小泉もまた、福島原発事故の戦犯のひとりなのだ。しかし、だからこそ、小泉は「あの時、自分が総理として、決断していれば、原発ゼロを実現できたし、福島原発の事故は防げた」という強い後悔の念をもっているのだろう。
実際、小泉氏は朝日新聞(15年9月13日付朝刊)のインタビューでも、「当時は役人や専門家に騙されていた」「政府や電力会社、専門家が言う『原発は安全で、コストが一番安く、クリーンなエネルギー』。これ全部うそだ」と悔しがり、こう話している。
「かつて原発を推進してきた一人としての責任は感じている。でも、うそだと分かってほっかむりしていいのか。論語にも『過ちは改むるに憚ることなかれ』とあるじゃない。首相経験者として逃げるべきじゃない、やっていかなければと決意した」
そして、総理として決断できなかったという後悔があるからこそ、「原発ゼロ」は総理の決断ひとつでできると、繰り返し主張しているのだろう。
しかし、安倍首相にはまったくその気はない。それどころか、原発利権の代理人として、次々に原発再稼働政策を推し進めている。
小泉氏は冒頭で紹介した講演の後の質疑応答で、小泉氏は記者からの「原発ゼロ」は参院選の争点になるか、の問いにこう語ったという。
「大きな公約のひとつにするべきです。与党はしたくないでしょう。私は原発ゼロの時代が来るまで粘り強く活動を続けていこうと思っています。引退したけど、あの事故を目の当たりにして、『こういうものだったのか』という悔しい思いをしている。他の問題に口を出すときりがないからこれに絞ってやっている。日本の国民の力は大きいから諦めていませんよ」
小泉氏の次の一手に注目したい。
(野尻民夫)
最終更新:2017.11.24 08:34