「ワナ」「謀略」「最初から告発目的」などという指摘も、イチャモンとしか思えないものだ。自民党や甘利サイドは、告発者が甘利事務所との会話を録音していたこと、さらには甘利大臣に渡した現金のコピーをとっていたことなどから、こんな戯言を言っているようだが、贈収賄事件で賄賂を贈る側が証拠をとっておくことは珍しくもなんともない。
また、甘利サイドは昨年10月19日の現金受け渡しの現場に「週刊文春」の記者がいて、受け渡し場面を隠し撮りしていたことをもって、最初から記事にするのを目的に仕組まれていたといっているが、これも明らかに見当違いだ。
S社と告発者は甘利事務所に都合3回の口利き依頼をしており、文春が同行したのは3度目の口利きの謝礼を支払う現場のみ。2013年の最初の口利き、翌年の2回目の口利きの段階では、告発者はまだ「週刊文春」にアプローチしていなかった。
当たり前だ。前述したように、告発者とS社は最初の口利きでURから2億2千万円もの補償金をせしめることに成功しているのだ。週刊誌に告発してもその100分の1にもならない。そんな割の悪いことをするはずもないだろう。
告発者が文春にアプローチしたのは、2回目の口利き依頼をめぐって、甘利事務所との間に亀裂が入ったためだった。
「告発者は1回目の成功に味をしめて、2014年、URにさらなる補償をさせようと、再び甘利事務所に口利きを依頼するんです。そして、甘利事務所もこれを安請け合いするんですが、交渉は失敗に終わり、結局、補償金は一銭も引き出せなかった。ところが、甘利事務所はその後も交渉失敗を隠して、告発者に接待や資金提供を要求し続け、その金額は1千万円以上にのぼった。途中で告発者が騙されていることに気づき、激怒。甘利事務所にこれまでかかった金を返却させようと動き始めたらしい。最初は、甘利事務所を脅すために『文春』を利用しようとしたフシもあったようですが、そこは百戦錬磨の『文春』、逆に告発者を『そんなことをしたら恐喝になる』と説得して、実名告発を決意させたということのようです。そして、証拠をおさえるために、3回目の口利き依頼の際に同行し、隠し撮りをしたのです」(「週刊文春」関係者)
いったいこれのどこが「謀略」なのか。3回目については、仕掛けた部分はもちろんあるが、捜査権を持たないメディアが物的証拠をおさえるためにこうした方法をとるのは当然だろう。むしろ、文春の報道はもっとも週刊誌らしい調査報道、あっぱれなスキャンダルすっぱ抜きといっていい。自分たちは権力をかさに口利きや賄賂受け取りという不正を働きながら、隠し撮りを「卑劣」などというのだから、自民党や甘利サイドの厚顔無恥ぶりには、開いた口がふさがらない。