マリカにとって清原は繊細で傷つきやすく、正直で、弱いものを庇い、正義感溢れた思いやりの塊みたいな人物だったという。そしてたまに深いことを言う。
〈土、日と彼の自宅で過ごし、月曜日のお昼。いつものように、お店にでるため大阪に帰る支度をしていたら、
「おまえ、お金持ってんのか。大丈夫か」
と彼。ひと月に何度も大阪〜東京間を往復するあたしを気遣った言葉だったのだろうが、私も若かったから素直になれなくて、つい意地悪を言った。
「いつも女の子にそんなこと訊いてるん」
彼は球場に行く準備をしながらあたしを睨んだ。
「おまえはアホか。何で俺が体を張って稼いだ金、そこらの女にやらなアカンねん」
「へえ〜そうなん」
あたしは嬉しさに、自分の顔が綻んでいたが隠した。
「当たり前やんけ。俺らは身一つで勝負してるねんで。打ち所が悪かったら怪我もするし、障害が残った先輩もおるんじゃ。なんでそんな金をしょうもない女にやるって言わなアカンねん」〉
そんな関係は1年足らずで解消されたというが、このエピソードは清原のその後を思うと興味深い。
他、モデルとして荒木経惟の写真集に出たり、三和銀行の頭取、全国の暴走族をまとめた日本狂走連盟初代総長、暴力団幹部など、多くの大物と出会うが、マリカはある男性と事実婚状態に。一人息子をもうけている。
しかしその後も、マリカは離婚と結婚を繰り返し、恋人や夫に裏切られ子供を連れて放浪生活を余儀なくされたり、2度も癌に侵されたりと波瀾万丈な生活は続き、そのためか2012年には真言宗で得度もしたという。
にわかには信じがたいような壮絶人生の記録だが、そのセンセーセショナルな内容の一方で、同書には、現代社会が抱えているさまざまな問題が顔をのぞかせている。貧困、国籍、ネグレクト、虐待、病魔、シングルマザー、被差別部落……。
同書がきっかけになって、普段、目をそらされているこうした問題に光があたることになればいいのだが……。
(林グンマ)
最終更新:2016.01.07 12:31