★8位 又吉直樹・芥川賞受賞&『火花』絶賛の嵐で出版界に誕生した“又吉タブー”とは
今年出版界で最大の話題となったのは、なんといってもピース・又吉直樹の芥川賞受賞と『火花』(文藝春秋)230万部のヒットだろう。今年の書籍と雑誌の販売額は、前年より5%減の1兆5200億円程度で、1兆6000億を下回るのは32年ぶり。落ち込み幅も統計開始の昭和25年以来、最大となった。そんななかで唯一、明るい話題となったのが又吉センセイの活躍だった。しかし、これによって新たな“作家タブー”が誕生したのだ。
現在も又吉には、小説・エッセイの執筆、いやせめてインタビューだけでも載せたいと編集者たちが列をなしている状態。そうなると、週刊誌はスキャンダルどころかちょっとした悪口も書くことはできない。実際、芸能人のスキャンダル記事が毎号のように賑わう週刊誌だが、又吉の芥川賞受賞以降、彼の美談しか掲載されていないのだ。
また、こうした作家タブーという構造的な問題とは別に、又吉本人だけではなく、作品に対しても“悪く言ってはいけない”という空気が流れている。
というのも、又吉自身の本が売れるのはもちろん、読書家の又吉はほかの小説作品もテレビや雑誌などで積極的に推薦、出版界にとってはスポークスマンの役割も進んではたしてくれる、非常にありがたい存在となっている。たとえば、芥川賞ノミネート直前に出演した『アメトーーク!』(テレビ朝日)で又吉は、中村文則の『教団X』(集英社)を紹介。ライト層にはハードルの高い純文学にもかかわらず、『教団X』はバカ売れした。
このように、又吉の出版界に対する影響力は絶大であり、それゆえ又吉作品を批判できない空気がつくり上げられてしまったのだ。それは出版界だけの話ではなく、読者側も同様だ。現に『報道ステーション』で古舘伊知郎が「芥川賞と本屋大賞の区分けがだんだんなくなってきた気がするんですけどね」「僕なんかの年代は『あれ?』っていう感じもちょっとするんですけどね」と雑感を述べただけで、たちまちネットは炎上した。
しかし、純文学の批評では、多少の批判が出るのはいたってふつうのこと。芥川賞の受賞作に対して「話題狙いじゃないのか」「あの作品のほうが出来は上」などと賛否が語られるのは定番であり、文学観はそれぞれだから賛否あって当然。だが、又吉の『火花』についてはそれすらないのだ。
もちろん、本人が意図してバッシングを封じ、作品批評をタブー化しているわけではない。しかしあまりにも出版界の“神様、仏様、又吉様”頼みは目に余る……というわけで6位という高順位に。来年は出版界も、又吉ひとりにすべてを負わせるような事態にならなければいいのだが。