左・元少年A『絶歌』太田出版/川崎市中1殺害事件について伝える国内ニュース(YouTube「ANNnewsCH」より)
安倍政権による安保法制が大きな注目を浴び、近年にないほど政治的関心が高まった2015年。しかし一方で、凶悪な犯罪や悲惨な事件も相次いだ。特に目を引いたのが少年少女が被害者・加害者になるケースだ。メディアの報道も過熱したが、そこには様々な問題も噴出した。メディアスクラム、加害者だけでなく被害者のプライバシー暴き、ヒステリックな感情報道……。権力に対しては萎縮し過剰な自主規制をする一方、事件報道ではその憂さ晴らしとばかりにいい加減な情報を垂れ流し、書き飛ばす傾向はますます強くなっている。今回の犯罪報道振り返りでは、そんなメディアのありようも含めてお伝えしたい。
■加害者へのハーフ差別、被害者の母親への攻撃…「川崎中1殺害事件」で浮き彫りになった歪んだ視線
2015年、最も世間を震撼させた事件のひとつが、神奈川県川崎市で起こった中学1年生上村遼太くん殺害事件だろう。2月20日、12歳だった上村くんの全裸遺体が多摩川河川敷で発見され、その1週間後には遊び仲間だった3人の少年が逮捕された。
被害者が幼さを残す12歳の少年だったこと、加害者は年の離れた遊び仲間だったこと、不良グループの存在など様々な問題が浮上し、多くのメディアが加害者少年たちの鬼畜ぶり、凶悪ぶりを報道していった。
特にマスコミが血眼になったのが主犯とされる18歳の少年をめぐる報道だった。
「キレると何をするか分からない」「地元でも恐れられている有名なワル」「上村くんに万引きを強要していた」
しかし、この主犯少年Aについては、後に「地元で有名なワル」などではなかったことが明らかになっている。万引きを強要したこともなく、上村くんを殴ったのも一度きり。別のグループとの対立で上村くんに裏切られたと誤解したから、という見方が有力だ。
だが、マスコミは事件をわかりやすい構図にあてはめ、加害者の少年やその家族のプライバシーを暴きたてた。「週刊新潮」(新潮社)3月12日号では加害者少年の実名と顔写真を掲載。この少年の母親がフィリピン人だったことから、中には、明らかなフィリピンとのハーフに対する差別としか思えないような記事もあった。
また、この事件では加害者だけではなく、被害者の上村くんの母親に対しても批判、バッシングが噴出した。ネットでは深夜に12歳の子供を外出させた母親への批判コメントが溢れたが、その急先鋒となったのが作家の林真理子だ。複数の媒体で「母親は何をしていたのか」「育児放棄」などと少年の夜の行動を監視できなかった母親を糾弾する。5人の子どもをもつシングルマザーで深夜もダブルワークしているという上村くんの家庭環境への配慮は欠片もないものだった。
そういう意味では、川崎中1事件報道はメディアの社会構造への意識の欠如、偏見が露わになったともいえるだろう。主犯格の少年の初公判は来年2月2日に行われる予定だが、その際も、再び薄っぺらい報道が繰り返されるのだろうか。