だが、その樋口裁判長もさすがに、今回の異議申し立ての審議には関わることはできなかった。裁判所の“原発推進人事”は見事に功を奏し、新たに赴任した林潤裁判長によって、高浜原発の再稼動差し止めは覆された。
しかも、今回決定が下されたのは高浜原発だけではない。同じく12月24日、福井地裁の林潤裁判長は、大飯原発の3、4号機を再稼働しないよう求めた住民の申し立てについても退けた。樋口裁判長が下した決定について控訴審で審理が継続されている中でのことである。ようは外堀を埋めたわけであり、これで高浜、大飯の2つの原発が再稼働されることがほぼ決定的となった。
もちろん、こうした人事を使った原発後押し判決の背後には、政府の意向がある。
「司法の独立なんていうのは建前にすぎなくて、今回に限らず、法務省は権力側に都合の悪い判決を出した裁判官に報復のような人事をするんです。例えば刑事事件で無罪判決を出したり、行政訴訟で住民側を勝訴させた裁判官は必ずと言っていいほど地方の支部や家庭裁判所に異動させられる。今回のケースもまさにそれに当たるでしょう」(司法関係者)
しかも信じられないことに、裁判所には直接、電力会社や原子力産業との癒着構造があるのだという。
その典型的な例を「週刊金曜日」2011年6月3日号でジャーナリスト三宅勝久氏がレポートしている。記事によれば1992年、伊方原発と福島原発設置許可取り消しを求めた裁判で「国の設置許可に違法性はない」と電力会社側に沿った判決を下した味村治氏(故人)が、退官後の98年、原発メーカーでもある東芝の社外監査役に天下りしていたという。
味村氏は東京高検検事長や内閣法制局長官を歴任し、最高裁判事となった人物で、いわば司法のエリート中のエリート。しかも味村氏の「原発は安全」との味村判決が、その後の原発建設ラッシュを後押しする結果となった。
原発企業に天下ったのは味村氏だけではない。同じく三宅氏のレポート(「週刊金曜日」2011年10月7日号)でも司法関係者の原発企業天下りが紹介されている。
・野崎幸雄(元名古屋高裁長官) 北海道電力社外監査役
・清水湛(元東京地検検事、広島高裁長官) 東芝社外取締役
・小杉丈夫(元大阪地裁判事補) 東芝社外取締役
・筧栄一(元東京高検検事長) 東芝社外監査役・取締役
・上田操(元大審院判事) 三菱電機監査役
・村山弘義(元東京高検検事長) 三菱電機社外監査役・取締役
・田代有嗣(元東京高検検事) 三菱電機社外監査役
・土肥孝治(元検事総長) 関西電力社外監査役