とくに象徴的なのは2001年だろう。この年、年間大賞を受賞したのは、「米百俵」「聖域なき改革」「恐れず怯まず捉われず」「骨太の方針」「ワイドショー内閣」「改革の「痛み」」という6語。すべて当時の首相・小泉純一郎が発した言葉で、トップテンには「抵抗勢力」も入った。すなわち、小泉ひとりで7語も候補に選ばれているのだ。これは〈空前の国民支持を背景に、説得力あるキャッチフレーズを駆使することで01年最多の「流行語生みの親」でもあった〉という解説が指し示すように、いかに当時、国民が小泉首相に熱狂的だったかを後世に伝えている。
さらに言えば、2011年の新語・流行語は、発表された候補60のうち32が震災・原発関連の言葉だった。しかも、当時の枝野幸男官房長官の「ただちに」「想定外」、それらを包括した「エダる」、菅直人首相の発言である「一定のメド」、そのほか「ゼロではない」「原子力ムラ」「安全神話」など民主党政権による原発事故の対応を批判する言葉が数多く候補に挙がっていた。
これらの歴代の流行語候補・入賞語からわかるのは、世相を反映させようとすれば時の政治に対して風刺・批判的な言葉が入るのは当然のことであり、逆に小泉語が7つも入賞を果たしたのは、その年、それだけ小泉が国民から政治的関心を集めたということだ。
そこであらためて今年の候補を見てみると、「切れ目のない対応」「存立危機事態」「駆けつけ警護」の3語は、安倍政権を批判した用語でも何でもなく、与党側から飛び出した言葉である。なにせ安保法制はツッコミどころに溢れた11法案を一気に法律化しようとしたのだから3つでも少ないくらいだし、こうした安保法の根幹にかかわる“曖昧な”言葉が今後どのように用いられていくかは重要な問題で、今年生まれた新語として取り上げるのは当然の話だろう。
また、「国民の理解が深まっていない」「レッテル貼り」「早く質問しろよ」は、すべて安倍首相の発言で、これらの言葉を駆使して国民世論を無視したという、じつに2015年の政治状況を象徴する言葉だ。そして、この夏、大規模なデモが市民のあいだから起こったことも同様に今年の大きなトピックであることは誰もが認めるところで、「I am not ABE」「アベ政治を許さない」「戦争法案」「自民党、感じ悪いよね」「シールズ(SEALDs)」「とりま、廃案」が入るのもけっして不自然ではない。