決してSFの話ではない。現代ではある種のクリシェとなっている“監視社会”という言葉だが、これは現実に施行された法律、あるいは成立一歩手前の法案の話なのだ。「そういう世界を狙っているのが共謀罪。これができれば、ある意味でほぼ完成形だと思うんです」と山下弁護士は言う。これらは同時に運用されることによって、その本質を見せる。安倍政権は“テロ防止のため”と繰り返すが、それはほんの一面にすぎないのだ。
もっとも、これらすべてが安倍晋三首相の思惑のうちにあるのかと言えば、それは急激に陰謀論に傾くだろう。しかし、少なくとも各法律は、それぞれの官僚組織の要望を反映させたものなのは確かだ。それが結果として何を導くのかについて、考えねばならない。
これを踏まえたうえで、パリ同時多発テロをきっかけとして再浮上してきた共謀罪新設と前後して、安倍政権が何を目指していたかについて確認したい。
11月19日、ポータルサイト最大手の「Yahoo!ニュース」に、こんな見出しの記事が踊った──「日本は『非常事態宣言』ができるか 憲法への緊急事態条項創設が課題」。産経新聞の記事だ。
記事は、フランスのオランド大統領が、パリ同時多発テロ発生後に「非常事態宣言」を発令したことを口火として、日本でも一時的に国民の権利を制限する国家緊急権の必要性を強調する。曰く、日本国憲法には同種の規定がないがゆえに「『テロとの戦い』の欠陥となっている」と。
一方、安倍首相は今月11日、参院予算委員会で来夏の参院選後の改憲について、「緊急事態条項」すなわち国家緊急権の創設を重視すると明言していた。産経は、パリのテロ事件で機を見るに、明らかに安倍政権による改憲を後押しするための世論をつくりだそうとしたと見ていいだろう。
だが、本サイトでなんども指摘しているように、緊急事態条項はそれ自体が非常に危険なものである。以下、自民党が公開している「日本国憲法改正草案」の当該箇所を抜粋する。
《(緊急事態の宣言)
第九十八条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。(後略)》