このほかにも、橋下は「努力して公立に行けばいいだけ」「学校に行かなくても学ぶ機会はある」「府の財政はギリギリ。学校だけのことを考えるわけにはいかない」など、勇気を振り絞って訴えた高校生たちの声をことごとく一蹴した。織原さんは、ちょうど一人手前で時間切れとなり、直接訴えることはなかったが、橋下の言葉に深く傷ついたという。それは、この面会を報じるマスメディアの報道に対しても同じだった。
自分の苦しさを必死で訴える高校生に、橋下さんは「府財政の現状をわかってますか?」「日本のGDPはどれぐらいだと思います?」などと逆質問をぶつけてくるんです。こちら側は答えられず言葉に詰まる。さっき言ったように泣いてしまう人もいる。テレビはそういうところだけを切り取って流すんです。ほんとうは、私たちの側も「自己責任だけで語ってほしくない」「教育は学力だけが目的じゃないはず」と、言うべきことも主張した。それなのに、「わがままな高校生たちが自分勝手な甘えた主張をして、橋下さんに論破された」という印象のニュースに仕立てられる。『ミヤネ屋』のアナウンサーや、フジテレビのニュースの木村太郎さんなんかは「私学助成は憲法違反だ」と言っていたのを覚えています。
そういう報道を見た人たちから、学校に抗議や嫌がらせが相次いだそうです。「甘えたことを言うな」「どんな教育をしてるんだ」って。私の卒業後には、「あの学校は日の丸を掲げてないらしい」「授業で貧困問題など余計なことを教えているようだ」という話に広がっていったとも聞いています。私が今回、SEALDs KANSAIでスピーチしたことに対しても、動画がネット上に出ると、誹謗中傷の書き込みが拡散されました。写真と名前、職場名とともに「共産党の手先」などと書いたコラ画像などがいくつも出回っているのを確認しています。ネットの反応などを見てると、私のような主張をする人間が許せないんだそうです。多くが維新の支持者のようですが、それだけじゃない。橋下さんのような考え方に世の中の多くの人が染まっているような気がします。
●荒廃する大阪の教育現場、今ここで橋下改革を終わらせておかないと……
高校生たちの必死の訴えは、橋下が声高に唱える自己責任論と、それに無批判に追随するマスメディアや世論によって蹂躙され、私学助成の削減も強行された。しかし、織原さんはくじけなかった。高校3年になると、「大阪の高校生に笑顔をくださいの会」の代表となり、一方で猛勉強して立命館大学へ入学。教職免許の取得を目指しながら、「教師の卵」というサークルを立ち上げ、真にあるべき教育とは何かを考え、実践し続けた。