毎日がスクープした経産省の内部文書によれば、前述の小泉発言後、有識者会議ではあらたに3つの施策が早急に取りまとめられていたという。その中には「対外秘」として「国が科学的観点から有望地を絞り込み」という項目があった。経産省エネルギー庁・放射性廃棄物等対策室の職員は「小泉発言以来、自民党から『早くなんとかしろ』と急かされており、困っている」と漏らしていたという。さらに、記事のなかには、このような経産省幹部のコメントが掲載されている。
「反原発への動きを抑えて都知事選をやり過ごすには、処分場選定を急ぐ姿勢を見せることが大切。実現可能性? あるわけない」
そして、この動きは2014年、10年間にわたって原子力委員長を務めていた“原子力ムラのドン”近藤駿介東京大学名誉教授がNUMOの新理事長に就任して、一気に具体化していく。今年5月には、国が処分地選出の主体となって「科学的有望地」を指定するという新方針が打ち出され、7月には、東京電力、中部電力、九州電力の中堅幹部が新理事に送り込まれた。いずれも、原子力発電所の地元立地対策を担当していた面々だ。
そしてこれと軌を一にするように、NUMOは新聞などへの広告出稿、全国でのシンポジウム開催など、受け入れの啓蒙活動を大々的に展開し始めたのだ。
たとえば、新聞広告ではこの10月に、読売新聞、秋田魁新報、福島民報、北日本新聞、山梨日日新聞、中国新聞、高知新聞、南日本新聞などに15段ぶち抜きの広告を大々的に展開しているし、雑誌でも、「日経ビジネス」(日経BP)など、経済誌にパブ記事を頻繁に掲載されるようになっていた。そして、今回、取り上げた産経への大規模なパブ記事出稿──。
もうおわかりだろう。高レベル放射性廃棄物の処分をめぐる啓蒙活動は、原発再稼働とは「別問題」どころか、完全にセットなのだ。しかも、経産省幹部の「実現可能性? あるわけない」というコメントからも明らかなように、彼らは現実に処分場選定の道筋をつくろうなどとは全く考えていない。重要なのは、原発再稼働のために処分場選定を真剣に考えているふりをすること。そのために、税金と電気料金を湯水のように使って、広告をばらまいているのだ。
これはまさに、この国の官僚がずっとやってきた国民を騙す詐欺的行為の典型だろう。そして、産経とそのパブ記事に登場した芸能人、学者たちは、その詐欺的行為の片棒をかついでいるようなものではないか。
しかも、このNUMOの広告バラマキにはもうひとつの狙いがある。それは、メディアや芸能人、文化人の“原子力ムラ”という利権共同体への取り込みだ。